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October 16, 2006

オペレッタ番外編 日本オペレッタ協会の“こうもり”

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常設のオペレッタ劇場が存在しない日本で、オペレッタの普及に尽力している団体が、寺崎裕則氏が中心となっている財団法人日本オペレッタ協会です。とにかく、オペレッタに対する理解が得られにくい我が国において、少ない予算とスタッフで、本当に頑張っていると思います。

また、「オペレッタの楽しさを、一般の方にも広めよう」というコンセプトから、あえて「日本語上演」で行っている点も、特徴の一つとなっています。

毎年、何回か公演が行われますが、この10月14日、15日の両日、東京都内(北とぴあ・さくらホール)で“こうもり”が上演されました。この公演を見る機会に恵まれたので、番外編として、その模様をご紹介しましょう。

寺崎裕則氏は、「オペレッタの本質」を深く理解している方なので、歌手にも、単に歌だけではなく、お芝居の素養を求めています(寺崎氏によれば「歌役者」となります)。そのため、出演者をある程度、固定化して、オペレッタ歌手を育ている姿勢を貫いているようです。というわけで、毎回、寺崎氏の考え方に賛同している歌手の皆様(フロッシュは役者さんですが)が登場するため、ある意味、安心してみることのできる舞台に仕上がっています。

何しろ、潤沢な資金のないグループなので、歌手や演奏者も、事実上、手弁当で参加している方が多いようです。そのため、オーケストラの人数が少なく(40名弱の編成です)、若干迫力に欠ける面があるのは、やむを得ないでしょう。

私は10月15日に鑑賞しましたが、わずか2公演しかないため、主役はダブルキャストにして、出演機会を増やすという配慮がありました(本番での舞台経験は重要だと思います)。

15日のキャストは、アイゼンシュタインが大野徹也、ロザリンデが宇佐見瑠璃、ファルケが、飯田裕之、アデーレが赤星啓子(オペレッタ協会公演初登場だそうです)、アルフレートが小原啓楼(オペレッタ協会公演初登場だそうです)、プリントが女屋哲郎、オルロフスキーが三矢直生、フランクが小栗純一、フロッシュが川端槇二(コメディーの役者さん)という面々でした。指揮は、おなじみの上垣 聡氏です。

今回の公演を鑑賞して、一番感じたことは、オペレッタ“こうもり”を初めて見るお客様に対して、より理解が進むように「丁寧な作り」になっていたことです。

例えば、第一幕のセリフの中に、今日が12月31日の大晦日であること、年末年始をゆっくり過ごすためアイゼンシュタイン一行がバーデンに来ていること、ファルケがロザリンデにオルロフスキー邸でのシルベスター・パーティーへの招待状を渡してオルロフスキー邸に来る理由を明確に示していたことなどです。実際、12月31日のお話であるからこそ、第三幕が新年になり日めくりカレンダーのジョークが受けるわけです。

このような「丁寧な作り」になっている上、日本語上演なので、初めての方でも十分楽しめる舞台に仕上がっていました。反面、丁寧に説明しているため、若干テンポが遅く感じられました。

さて、演出ですが、非常にオーソドックスなものでした。前回、ご紹介した新国立劇場公演に比べると、オペレッタ“こうもり”を熟知している寺崎氏らしく、安心してみることのできる内容になっていました(実際、会場でも幕間に「よくわかった」という初心者の声を聞きました)。今回、新しい試みが、「日本情緒」を取り入れたことでしょうか。ちょうど、ウィーン万国博覧会後で、ジャポニズムがウィーンではやっているという想定でした。

第一幕では、ロザリンデが打ち掛け風のガンウ?を羽織って出てきました。また、第二幕のオルロフスキー邸では、「日本情緒」が強調され、舞台両側に巨大な「和風の絵」(掛け軸風)が下がり、赤い太鼓橋が設けられていました。当然、シルベスター・パーティーに出席する人の中にも、和服のデザインを一部取り入れたドレスをお召しになっている女性が登場しました。「外国人が、和風を取り入れる、とこんな感じになる」という形なので、それなりの感じはするのですが、正直、賛否両論があると思います。私、個人としては、凝り過ぎず、普通の舞台装置、衣装で行った方が、良かったと思っています。

さて、第一幕は、バーデンのアイゼンシュタイン邸ですが、ちゃんと居間でのお話になっていました。また、舞台装置も低予算ながら、雰囲気が良く出ていました。
寺崎氏が提唱している「歌役者」の考え方が浸透してきているため、お芝居もかなり良くなってきていました。ただし、歌については、日本語歌詞という制約があるためかもしれませんが、ちょっと物足りない感じがしました。歌手の皆さんも、ちょっと歌いにくそうなアリアもありました。

第二幕のオルロフスキー邸では、先に紹介した「ジャポニズムを前面に出した舞台」が特徴的です。オルロフスキー役の三矢さんは、宝塚のご出身らしく男役はピッタリでした。ただし、もう少し退廃的な感じを出しても良かったと思います。特に冒頭のアイゼンシュタインとの掛け合いなどでは、強い調子で迫った方が、存在感が増したように思います。第二幕でも、舞台装置以外の演出は、オーソドックスなものでしたが、ファルケが「こうもり博士」と呼ばれるようになった「いきさつ」に関する説明(アイゼンシュタインがパーティー中に行っていました)などが、丁寧に行われていた関係で、やや冗長な感じがしてしまいました。初心者への配慮なので、致し方ないとは思いますが、舞台進行のテンポが遅くなってしまった点が惜しまれます。なお、オルロフスキー邸でのシルベスター・パーティーでは、最後、「雷鳴と電光」のメロディーに乗って、全員が酔っぱらって踊りまくるシーンが、ちゃんと入っていました。

第三幕の主役は、どこの劇場でもフロッシュですが、コメディー役者の川端さんらしく、見事な演技が光りました。この人選は見事です。なお、川端さんは、歌手の皆さんへ演技のアドバイスもしているとのことでした。演出では、オルロフスキー邸からフランクが帰ってくる前に、ピチカートポルカに乗って、「ネズミのバレエ」が披露されました。想定としては、酔っぱらったフロッシュの「夢の中の出来事」のようでしたが、これも新機軸でしょう。ただ、このバレエなどが入ったため、第三幕の上演時間が長くなり、「全てはお芝居」という種明かしに向かって、一気に盛り上がっていく雰囲気が損なわれたように感じました。ちょっと残念です。最後は、オペレッタ協会恒例の「出演者全員そろっての合唱」(ぶどうが燃えたぎって)で、お開きとなりました。
日本オペレッタ協会は、日本語上演に「ある種のこだわり」があるため、歌に関しては、和訳に苦労している様子がわかります。しかし、残念なことですが、どうしてもメロディーと合わない歌詞が出てきてしまいます。実際、今回の上演でも、聴いていて、日本語で歌っているにもかかわらず、何を言っているのか、よくわからないという場面に、何回か遭遇しました。正直、もったいない気がします。
オペレッタの場合、お芝居が重要な要素を占めていることもあるので、全編、言語上演は確かに敷居が高くなってしまいます。そのため、お芝居の部分は日本語で良いと思うのですが、歌の場面は言語の方が、歌手の皆さんも歌いやすいのではないかと思っています。

最後に残念だったのは、熱心なファンの「過剰な応援」です。例えば、ご贔屓の歌手が出てくると、その段階でかけ声を送るというシーンが何度か見られました。また、カーテンコールでも、必要以上にブラヴァが目立ちました。純粋に観客の立場で見ていると、正直「そんなに良かったかな」と感じることがあります。そのため、ブラヴァの嵐が、逆にしらける結果になってしまいました。このほか、途中でも拍手のフライングが多く(これらは客席後方から始まっているところを見ると、関係者の可能性がありますが)、残念に思いました。この結果、一般のオペレッタファンの中には、同協会の公演は「身内で盛り上がっている」と誤解している人もいらっしゃるようです。違和感を覚えるのは、私だけではないかもしれません。

確かに上演に対しては多くの協会会員がボランティアとして参加し、皆で公演を創り上げているのだと思います。この点は、本当に頭が下がります。ある意味、「見ているだけ」の私たちに比べれば、オペレッタに注ぐ愛情の強さが感じられます。しかし、プレイガイドなどを通じて、公演チケットを販売している立派な「プロの公演」です。出演している歌手や演奏家の皆さんは、そのことを十二分に承知していると思いますが、運営にかかわる皆様も、この点を十分意識していただけると、より良い公演に成長すると思います。

私がオペレッタにはまってしまった最大の要因は、黄金時代は過ぎたとはいえ、ウィーン訪問時に、いきなりフォルクスオパーで「本物」を観たことによるものです。これは、舞台もさることながら、劇場の雰囲気、観客の反応も含めた「オペレッタの楽しさ」の真髄にふれたことが要因になっています。残念ながら日本ではオペレッタを専門に上演する劇場はありません。また、常時、オペレッタに取り組んでいる団体も、日本オペレッタ協会を含めて、ごく少数です。それだけに、より高いレベルのオペレッタが日本で観ることができるようになると、マイノリティの「オペレッタファン」が、増えるかもしれないと、心の中で期待しています。大変失礼な言い方になりますが、一般のファンから「身内で盛り上がっている」と誤解されているうちは、さらなる発展は望めないと思います。

ところで、日本は“こうもり”の当たり年のようで、2005シーズンの最後には、新国立劇場でも上演されました。また、毎年、楽しい舞台で観客を魅了するブダペスト・オペレッタ劇場の2007年新春公演も、同劇団としては日本初演となる“こうもり”、さらに国内組では二期会でも神奈川で上演するようです。ブダペスト版の“こうもり”は、今から楽しみです。

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