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December 18, 2006

「伯爵令嬢マリッツァ」プルミエレポート

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フォルクスオパーでは、2002年12月にカールマンの名作オペレッタ「伯爵令嬢マリッツァ」を全面的に改訂し、上演しました。

当時、私もプルミエを見る機会があり、大変楽しみにしていました。しかし、その内容たるや、惨憺たるもので、正直、本来、盛り上がる第3幕は見るに耐えない演出になっていました。また、元々、ハンガリーでのお話なので、ジプシーの楽団が登場するのが一般的なのですが、これをカリビアンバンドにしてしまうなど、正直、どういうコンセプトで改訂したのかが、わからないオペレッタでした。当たり前ですが、これは大不評で、ルドルフ・ベルガー氏がフォルクスオパーに就任した直後から、“是非、再改訂したい”と宣言していたほどです。

さて、プルミエを観た私の個人的な感想を一言で表現すれば「待っていました。フォルクスオパー。これぞ、オペレッタの王道」です。

成功要因は、1.オリジナルを尊重した演出、2.歌唱力だけではなく、踊りを重視した歌手のキャスティング、3.大量動員した合唱団による迫力あるコーラスの三点になると思います。
以下、あくまでも私見ですが、詳細をご紹介します。

○オリジナルを尊重した演出
前回が、余りにも過激な演出だったため、どうなるかを心配しましたが、ブダペスト・オペレッタ劇場から、Miklós-Gábor、 Kerényi Bühneなどの演出家を招聘したことにより、極めてオーソドックスな演出に戻りました。
オペレッタの場合、有名なデュエットなどは、即アンコールをすることで、舞台が盛り上がるのですが、今回は、2箇所ほど、あらかじめ設定されていました。

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もちろん、21世紀に上演する訳ですから、古いままではなく、第2幕の山場であるマリッツア邸に再現したタバリンのシーンでは、ダンスシーンに同じカールマンの「シカゴの公爵夫人」の流れをくむジャズが取り入れられています(まぁ、これ以上やると雰囲気が崩れるので、このあたりが限度かと思いますが)。

しかし、テンポの良い第1幕、第2幕に比べて、オリジナルでは第3幕が、お芝居中心となります。そのため、どうしても第3幕が冗長な感じがするのですが、今回は、お芝居の内容を充実(特にボツニア伯爵夫人のお供ペニツェク GideonSingerの演技が光りました)させる方法をとっていました。そのため、リーサとシュテファン(ジュパン)のデュエットが際だちました。当然、エンディングの盛り上がりも、予想通りです。

このほか、舞台上には、ジプシー楽団(4名編成)するのも、オーソドックスな演出の現れかもしれません。
「伯爵令嬢マリッツア」はハンガリーを舞台としたお話なので、ハンガリー風の味付けが見事にはまった感じです。

○歌唱力だけではなく、踊りを重視した歌手のキャスティング
実は、フォルクスオパーとブダペスト・オペレッタ劇場は、良い意味のライバルとして、比較されることがあります。その際、フォルクスオパーは「歌が一番、お芝居場二番、踊りが三番」と言われることがあります。つまり、キャスティングに際しては、歌のうまい歌手が登用される傾向があります。

それに対して、ブダペスト・オペレッタ劇場は「歌、お芝居、踊りのすべてが一番」です。つまり、歌、お芝居、踊りが三位一体となったものが、ブダペスト・オペレッタ劇場の特徴と言えます。そのため、CDなどで歌を単独で比較すると、フォルクスオパーよりもレベルが下がる場合があるのですが、ライブの舞台を観ると、歌の弱さを補って余りあるお芝居や踊りを観ることができます。

今回、ブダペスト・オペレッタ劇場が演出に関わったことで、キャスティングが注目されました。まず、マリッツア役はTünde Frankó(ブダペスト側からの推奨)があたりましたが、歌唱力は申し分ありません(今回は、まだこなれていない部分がありましたが、声量は申し分ないので、今後が期待できます)。また、主役級としては踊りも上手で、シュテファン(ジュパン)やポプレスク侯爵と一緒に踊るシーンは、躍動感あふれる演技でした。
なお、相手役のタシロ役はWalterJeneweinがつとめました。WalterJeneweinに関しては、芝居はまずまずでしたが、歌に関しては、やや声量不足を感じる場面がありました。ただ、ポイントは押さえていたので、今後、良くなることが期待されます。

また、ある意味、それ以上に注目されたのが、リーサとシュテファン(ジュパン)です。いずれも踊りが非常に上手で、第2幕以降は、ブダペスト・オペレッタ劇場のようなアクロバットも披露していました。ちなみにリーサ役はAndreaBogner、シュテファン役はMarkoKatholで、フォルクスオパーでは珍しい芸達者な歌手である。ただし、AndreaBognerは歌に関しては、声量がやや足りない感じがしましたが、踊りとお芝居が上手で、快活なリーサの雰囲気をよく出していました。

このほか、ポプレスク侯爵役はJosefForstner(この歌手も、お年の割には踊りが上手でした)、ボツニア伯爵夫人役はHelgaPapouschekがあたりました。いずれもお芝居が上手なので、頼りになります。
このように主要な出演者を見ると、今回は、今までのフォルクスオパーの基準ではなく、あえてブダペスト・オペレッタ劇場のように「歌、お芝居、踊り」という三つがそろっている歌手を選んだ節があります。そのため、従来のフォルクスオパーではなかった、歌手陣によるダイナミックなダンスシーンがふんだんに登場しました。もちろん、踊りに関しては、ウィーンなので、ブダペスト・オペレッタ劇場に比べればセーブしていました。

全体的に観ると、まだ「こなれていない」ところが見受けられましたが、プルミエを観た感じでは、公演を重ねるにつれて、小さな問題は解消できるだろうと思います。
なお、プルミエの指揮者はAndreasSchüllerでしたが、気合いの入った指揮ぶりが印象的でした。

○大量動員した合唱団による迫力あるコーラス
フォルクスオパーの最近のオペレッタは、合唱団の人数が少なくなる傾向があります。費用の関係なのでしょうかね。

しかし、今回の「伯爵令嬢マリッツア」では、オペレッタとしては久しぶりに合唱団が大量動員され、迫力あるコーラスが楽しめました。これだけでも、舞台の雰囲気が大きく変わることが、改めて実感できました。

とくに、第1幕で招待者達が街のキャバレー・タバリンに行くシーンや、第2幕のマリッツア邸での「宴のシーン」などは、迫力十分です。もちろん、ダンスシーンも多く、バレエ団も大活躍する舞台になっています。なお、オーケストラの人数も「メリーウィドウ」などよりも多かったと思います。

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○その他
舞台装置も最近のフォルクスオパーにしては、良くまとまっていました。とくに回り舞台を上手に活用して、場面転換を頻繁に行い、テンポの良い仕上がりになっていました(基本はマリッツア邸の中庭、大広間、ブランコのある広場の3場面でした)。第2幕のマリッツァ邸の大広間でタバリンを再現する場面では、本棚を開くと雰囲気が変わるという見事な舞台装置で、短時間での場面転換に成功しています。また、大広間にはビリヤード台があるのですが、第3幕では、ちょっと面白い使われ方をします。これは、観てのお楽しみとしておきましょう。

また、ブダペスト・オペレッタ劇場のように、同一舞台装置でも照明を上手に使って、舞台に変化をつけていました。

なお、衣装に関しては、以前のような「避難民スタイル」から、普通のスタイルに脱却しました。ただし、第2幕後半でマリッツアが着る民族衣装が、あまり特色がなく(普通のディアンドル)、ちょっと残念なところです。衣装は民族色を弱める方針なのかもしれません。

このように私個人としては、大変良いオペレッタに仕上がっていたと感じました。最近良かった「ルクセンブルク伯」よりも、上でしょう。しかし、ウィーンの地元での評判が良いかどうかは、わかりません。というのは、伝統的にウィーンでは、オペレッタの場合、「歌手が躍りなどで、盛り上げるのは邪道だ」といった見方があるようです。したがって、評価の際にも、歌手の歌とお芝居(さらに役の雰囲気)に重点が置かれるようです。

そのように考えると、ブダペスト・オペレッタ劇場に近い、踊りのシーンがどのように受け入れられるか、興味のあるところです。恐らく「良くも悪くもハンガリー風の仕上がり」というのが、ウィーンでの一般的な評価だと思う。
しかし、「オペレッタにはまっている男」としては、理屈抜きにオペレッタの王道を行く、ホロリとしながらも楽しい舞台なので、「今シーズンのお奨め」としましょう。

なお、余談ですが公演終了後、フォルクスオパーの近くでセラフィンさんを見かけました。きっと、プルミエをご覧になったのだと思いますが、どのような感想をお持ちになったのか、伺いたいものです。

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