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January 06, 2007

「こうもり」四方山話2 新演出のフォルクスオパー

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「こうもり」四方山話 第二弾は、2006年12月にプルミエ公演を行ったフォルクスオパー版のお話です。

「ウィンナ・オペレッタの総本山」(最近は、その地位が危うい?)である、フォルクスオパーですが、最近の新演出は、評価が極端に割れる傾向があります。

その評価も、評論家と観客の双方から総スカン(例:メリーウィドウ)、評論家は頭を抱えるが観客は大喜び(例:伯爵令嬢マリッツア)というパターンになっています。残念ながら、オペレッタに関しては、「評論家も観客も大喜び」という理想的なパターンが、最近はありません。以前もお話ししましたが、上演方針に一貫性がないため、その都度、演出家に振り回されている感じがします(ルドフル・ベルガーさん、ごめんなさい)。

そんな中で、オペレッタの名作「こうもり」が、リニューアルされることになりました。「メリーウィドウ」のようになったら、正直、目も当てられません。

それでは、新演出による上演の模様をご紹介しましょう。まず、今回のリニューアルは、「メリーウィドウ」のようなゼロベースでの全面改定ではなく、1987年10月にプルミエを迎えた演出を磨き上げるものでした。つまり、完成度の高かった従来の内容を、さらにブラッシュアップしたものです。

最大のポイントは演出と同時に、フォルクスオパーのオペレッタとしては、久しぶりに「レベルの高い歌手をそろえた」ということでしょう。これが、マスコミでの高評価にもつながっていると思います。

私が鑑賞した時の主要な配役は、アイゼンシュタイン役はSebastianReinthaller、ロザリンデ役はKristianeKaiser、ファルケ役がMathiasHausmann、フランク役はCarlo Hartmann、オルロフスキー役は、何と1月の国立歌劇場公演で同役を務めたElisabethKulman、アデーレ役はNatalieKarl、イーダ役はJohannaArrouas、そして三幕の主役フロッシュはBrankoSamarovski(私の好きなWasserlofの日もあるのですが、こちらも見たかったところです)がつとめました。また、指揮者はフォルクスオパー主任指揮者のLeopoldHagerでした。

さて、基本的な演出は変えていないので、舞台装置や衣装も、豪華絢爛なものを継承しています。
フォルクスオパーの場合、舞台が狭い(特に奥行きがない)ため、壮大なセットを組むことは困難です。そのため、「こうもり」の場合、すべて平屋になっています。しかし、一幕のアイゼンシュタイン邸は、新興貴族らしい、豪華な居間が再現されています。奥が玄関に通じる廊下になっているところが、みそです。

二幕は、ご存じ、オルロフスキー邸での夜会ですが、舞台が狭いため、大広間を中心に展開するようになっています。ただし、後半、全員がダンスを踊るシーンでは、パーテーションを引き上げて舞台を広くするという仕掛けもあります。
フォルクスオパーは、通常、休憩は一回ですが、「こうもり」の場合、舞台装置が極端に違うため、今回の改訂後も、休憩は二回入ります。

三幕は、おなじみ刑務所の場面です。この場面では、小道具が重要な役割を果たします。ストーブとやかん、ティーセット、ソーダサイフォン、ろうそくと新聞(フォルクスオパーでは、新聞にあらかじめ穴は空いていません)、フランクが顔を洗う洗面台と水差し、そして、32日が出てくるカレンダーなどは、しっかり登場します。
アルフレードが収容されている牢屋は、客席から向かって左側の奥にある設定でした(実際は扉があるだけで、奥が牢屋になっているという想定です)。

なお、一幕は昼から始まって、最後は夕方になります。そして、二幕が夜、三幕が朝と、見事に照明が使い分けられています。

さて、今回、演出はハインツ・ツェトニック(HaeizZednik)氏が担当しましたが、物語の先を連想させるきめ細かい演出が光りました。

まず、一幕では、冒頭、アデーレが登場した後、呼び鈴が鳴って、アデーレ宛に「夜会への招待状」が届き、喜びまくる場面になります。つまり、ここから「笑いの復讐の仕掛け」が始まっていることが、観客にわかるという演出です。

そして、アイゼンシュタインが正装して、刑務所へ出頭すると偽って、オルロフスキー邸の夜会へ意気揚々と出かける訳ですが、閑をもらったアデーレも、アイゼンシュタインと一緒に居間を後にします。しかし、アルフレードとロザリンデが、居間でイチャイチャしている時に、こっそり戻ってきて、ロザリンデの赤いドレスに着替えて、密かに夜会に出撃します。一幕で赤いドレスのアデーレが出てくるのは、ほんの一瞬なのですが、物語の必然性が見えてきます。

さらに、アイゼンシュタインが出かけた後、アルフレードが屋敷に入ってきて、ロザリンデとイチャイチャするのですが、いかにも「マダムとの不倫」という雰囲気をよく出していました(アルフレードが若いので、何となく不倫相手にぴったりかな)。また、トカイワインが置かれているのは、二幕の「妖艶なハンガリー貴婦人」への布石でしょう(実際、「トカイワインがあるじゃないか」みないな台詞もありましたが、小道具のラベルもトカイワインになっていました。つまないところを観ている私…)。

そして、刑務所長のフランクがアイゼンシュタインを拘束するため、アイゼンシュタイン邸を訪れてからの演出も見事です。というのは、テーブルの上に、アイゼンシュタインとロザリンデが並んで写っている写真が飾ってあります(結婚式の写真でしょうか)。フランクは、この写真を見て、目の前に居るのがアイゼンシュタイン本人かを確認しようとするのですが、ロザリンデが、不倫がばれるのを恐れて、この写真をさっさとアルフレードに渡して隠してしまいます。このあたりの演出は芸が細かさは見事です。つまり、物語を知っている人が見ると、「思わず納得」というシーンの連続なのです。

二幕では、最初にアデーレとイーダが、オルロフスキー邸で突然、出会って驚くシーンから始まりますが、実は、この場面で、ファルケとオルロフスキーが右の奥でひそひそ話をしています。話の内容は、当然観客には聞こえないのですが、ファルケが、これから始まる「笑いの復讐」の筋書きや登場人物をオルロフスキー説明していることが、想像できます。

さらに、イーダは「バレリーナ志望」という、明確な人物設定がなされているため、二幕では本物のバレリーナが踊る「ピチカートポルカ」にイーダが加わります(これは、以前からありました)。イーダは、タイミングがずれてしまい、一緒に踊るバレリーナからひんしゅくを買うシーンが見物です(もちろん、演技でやっている訳ですが)。

ところで、今までフォルクスオパー版では、二幕で「雷鳴と電光」はありませんでいたが、今回の改訂では取り入れられました。ただし、最初から乱痴気騒ぎになるのではなく、バレエ団が見事な踊りを披露し、その後、バレリーナ志望のイーダがファルケを誘って踊りの輪に入り、それにつられてアデーレとフランク、アイゼンシュタインとロザリンデなどのカップルが徐々に加わり、最後はゲスト全員が踊り出すという、緻密な演出になっていました。
「雷鳴と電光」の最後では、オルロフスキーを除く全員が舞台上に倒れ込むシーンはあるのですが、すぐに「こうもりのワルツ」が流れ、皆がきれいな踊りに戻るところに、気品が感じられます(このあたりの演出は見事です。これぞウィンナ・オペレッタ!)。

三幕は、従来と基本的の同じ演出ですが、「コウモリの扮装をした謎の人物」が登場しなくなり、より現実感のある舞台になりました。面白かったのは、ブリントに扮したアイゼンシュタインが、ロザリンデとアルフレードの話に業を煮やし、身分を明かして怒り狂った後、逆にロザリンデが、日傘やソーダサイフォンでアイゼンシュタインに応酬する場面です。

さて、私が見た個人的な歌手の感想ですが、「フォルクスオパーのオペレッタとしては、久しぶりに聴かせて魅せる歌手をそろえたな」というのが第一印象です。最近のフォルクスオパーでは、声量不足の歌手が何人か出てくるケースが多かったのですが、今回は、皆さん水準以上です。見事なキャスティングと言えるでしょう(実際にはもう一つのチームがあります)。

まず、アイゼンシュタイン役のSebastianReinthallerは、歌、演技とも見事でした。ただし、石頭のイメージにはぴったりなのですが、「女に目がない、スケベオヤジ」という感じはしませんでした(ファーストクルーのSebastianHoleckの方が、イメージはぴったりかもしれません)。

ロザリンデ役のKristianeKaiserは、声量が十分あり、聴かせどころの二幕「チャールダーシュ」が見事でした。途中、感極まって卒倒するシーンがあるのですが、「歌い上げる」という雰囲気を見事に再現していました(要するに無理してハンガリーの貴婦人を演じている姿を再現している訳です)。また、二幕では、情熱の国ハンガリーをイメージした赤いドレスで登場し、雰囲気を盛り上げていました。雰囲気も「妖艶なハンガリー貴婦人」にぴったりでした(こちらもファーストクルーのAlexandreReinprechtと比べてみたいところです)。

アデーレ役のNatalieKarlは、色っぽい感じがして「男に取り入ってでも、一旗揚げたい」という野心が感じられました。しかし、歌唱力と演技は見事で、彼女なりのアデーレを創っていました。コロラチューラのテクニックは、必ずしも高いとは言えませんが、声量と演技力があるため、オペレッタでは十分でしょう。

イーダ役のJohannaArrouasは、単独で歌う場面はありませんが、演技力は抜群で、二幕の「ピチカートポルカ」で踊る場面では、良い味を出していました。

ファルケ役のMathisaHausmannは、歌唱力がある上、演技もうまく、舞台上でも存在感を発揮していました。ある意味、アイゼンシュタインよりも、目立っていました。最近見たファルケ役では、抜群でしたね。

オルロフスキー役は、国立歌劇場の「こうもり」1月公演でも同じ役を務めた、ElisabethKulman でした。正直、同じ役で両劇場に連続で登場するとは、びっくりです。さすがに衣装は違っていましたが、長い髪を後ろひとつに束ねた独特の髪型は健在でした。国立歌劇場のところでも、ご紹介しましたが、切れ味が鋭く、二幕でアイゼンシュタインに迫るシーンでは、アイゼンシュタインが、びびっているように見えました(そのくらい、怖い感じがしました。あんたはロシアマフィアのドンか)。不思議なもので、フォルクスオパーの方が、良い味が出ていたように感じました(これは、演出と指揮によるところがあるかもしれません)。

フランク役のCarloHartmannは、歌だけではなく、演技も見事です。特に三幕の演技は良かったですね。また、フロッシュのBrankoSamarovskiは、アドリブ連発で、観客から大受けでした。もちろん、CarloHartmannとBrankoSamarovskiの掛け合いも、呼吸がぴったり合っており、楽しい舞台になっていました(どうせだったらRobertMeyerにも、戻ってきてもらいたかったところです)。

指揮者のLeopoldHagerは、基本的にはゆったりとしたテンポで演奏するのですが、ここ一番という時には、「テンポを上げる」というメリハリのある指揮ぶりでした。また、指揮者がお休みとなる「台詞の場面」でも、椅子に座ることなく、鋭い眼光で舞台を凝視していました。この姿勢だけからも、本公演にかける意気込みが十分伝わってきます(観客が大受けするシーンでも、ほとんど笑顔は見せず、終始真剣な表情でした)。国立歌劇場に比べると、管弦楽団の人数は少ないのですが、今回は、見事にその実力を引き出していたように思います。「メリーウィドウ」のプルミエもLeopoldHagerが振っていたのですが、演出の違いなのでしょうか。

全体的な印象としては、「久しぶりに本格的なウィンナ・オペレッタに出会った」というところでしょうか。ある意味、フォルクスオパーの底力を見た思いがします。私が、オペレッタにはまったのは、このようなオペレッタだったのです。このような良い意味で伝統を継承し、かつ歌唱力のある歌手をキャスティングすれば、フォルクスオパーのオペレッタは心配ありません。今回の「こうもり」は、「評論家も観客も大喜び」という理想的なパターンです。今後が楽しみになった新「こうもり」でした。それだけに、ウィンナ・オペレッタの名作「メリーウィドウ」を、このレベルにしてくれなかったのが、残念でなりません。何とかして!!

なお、今回は改訂だったため、プログラムは従来通りです。したがって、日本語のあらすじもありません。何回がご覧の方は、40セントの出演者リストだけで十分でしょう(劇場の皆さん、スミマセン)。

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Comments

自己レスですが、そういえば、2006年6月に日本の新国立劇場で上演された「こうもり」も、ハインツ・ツェドニク氏の演出だったのですが、今回の、フォルクスオパー版の方が、格段に良かったと思います。

Posted by: オペレッタにはまっている男 | January 09, 2007 11:48

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