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May 04, 2008

オペラ「死の都」

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オーストリア出身の作曲家コルンゴルト作のオペラ「死の都」(Die tote Stadt)が、国立歌劇場で上演されています。評判のよいオペラなのですが、上演階数が少ないため、今まで見るチャンスがありませんでした。

このオペラを語る上で、忘れてはならないのは時代背景でしょう。1920年代、第一次世界大戦で痛恨のトラウマを味わった聴衆にとって、「喪失感(愛するものを喪ったという感覚)の克服」は、他人事ではなく、自分事だったのです。そのため、トラウマを味わった聴衆から、絶大な支持を受けたというのも頷けます。しかし、皮肉なことにナチス政権が、ユダヤ系という血筋を理由に、コルンゴルトの作品の上演を禁止してしまいます。その結果、戦後も、しばらく上演される機会が少なかった作品です(いわゆる退廃芸術という烙印を押された作品ですね)。

Feriが観た時のキャストですが、指揮は国立歌劇場デビューとなるPhilipper Auguni、歌手陣の主な配役は、ポール役はKlaus Florian Vogt、マリーとマリエッタ(一人二役)役がAngeka Denoke、パウルの親友フランク役がMarkus Eiche、ブリギッタ役がJanina Baechleといった面々でした。

舞台装置は、スライドを使った幻想的なもので、第一幕はパウルが亡き妻を偲んで作った「名残の部屋」での展開となります。ここで、ポールの苦悩が表現されるのですが、Klaus Florian Vogtの演技はなかなか魅せるものがありました。

また、亡き妻のマリーと、無邪気な娘マリエッタを一人二役でこなすAngeka Denokeが見事でしたね。マリーとマリエッタでは、声の質を変えて、役を演じ分けているところが、お見事の一言。特に一幕では、マリーとマリエッタが入れ替わりで出てくる場面があるため、見応えがありました。

今回は、休憩なしで二幕に入りました。二幕は、「ポールの幻想」という設定なので、メインの舞台の後ろに「ポールの幻想空間の舞台」が登場しました。基本的には、ポールの脳内なのでメインの舞台と同じデザインです。舞台に奥行きのある国立歌劇場だから実現できる凝った演出といえるでしょう。この「幻想舞台」で、マリエッタが劇団の仲間と「悪魔のロベール」が演じるのですが、極めて官能的な演出です。Angeka Denokeはバレエをやっていたことがあるらしく、男を惑わす妖艶な色気に満ちあふれていました。まさに、作品が作られた世紀末の混沌とした人間心理を表現しています。ところで、二幕は奥の舞台が中心となるため、客席両サイドのお客さまは、何をやっているのかがよくわからないという悲惨な結果になります。これからご覧になる方は、奥まで見える席をとることをお勧めします。

二幕終了後、休憩となります。二幕まで通して上演しているため、三幕は40分ほどでした。三幕は再び、現実の「パウルの部屋」(前の舞台)になります。マリエッタと暮らし始めるパウルなのですが、諍いが絶えません。パウルは、マリエッタを連れてきたことを悔いて、マリエッタに出て行くように求めるのですが、マリエッタは相手にしません。このあたりの「二人の掛け合い」はなかなか魅せるものがありました。特にパウルの苦悩が見事に表現されていました(Klaus Florian Vogtの演技はなかなかいいですね)。そして、激高したパウルが、幻想空間から現れた司祭からマリーの遺髪を受け取り、それでマリエッタの首を絞めてしまいます。ところが、この司祭、遺髪を渡した瞬間に悪魔のような表情に代わり、パウルの内面を表現していました。このあたりの演出も興味深いですね。実際には、マリエッタを殺してしまったのも幻想の中なので、舞台が明るくなると、マリエッタの死体はありません。そ最後は、幻想から醒めたパウルが、前向きに生きていくことを決意し、明るい光が差し込むドアから「名残の部屋」を去るという演出でした。

特に最後は、印象的な演奏とともに「余韻の残る見事なエンディング」でした。また、お客さまも、幕が閉じて、演奏が完全に終わるまで、拍手をすることもなく、余韻に浸っているような感じを受けました(これぞ、見事なオペラ鑑賞姿勢ですね)。

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喪失感という人間の内面を表現した見事なオペラでした。とくにAngeka Denokeは、歌唱力、演技力とも抜群で、コルンゴルトの世界観を見事に表現していました。

日本では、まず上演される機会のないオペラなので、機会があったら是非、ご覧になることをお勧めします。

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Comments

お久し振りです。昨秋不本意ながら病を得て今は元気になりましたが、ナマのステージには永らくご無沙汰でビデオ(DVD)やCDそれと「オーストリアこぼれ話」を楽しむ毎日です。
さてコルンゴルトの「死の都」は未だにナマでは見る機会が無いままですが、以前NHK/BSでストラスブール・ライン歌劇場版の放映がありこの録画が我が家唯一の映像で大切にしております。ここでのマリー/マリエッタが初めて接したA・デノケで素敵なソプラノだなと、そしてワーグナーやR・シュトラウス向きだなと思いましたが、矢張りそうでした。ワーグナーで定評があると後日知りましたし、昨年3月にはウイーンで「ばらの騎士」をガランチャと共演したようでヨダレの落ちる思いでした。昨年はドレスデン歌劇場の来日公演「ばらの騎士」で彼女がキャンセルして残念なことでした。(代役も結構良かったですけれど)
コルンゴルトの毒にあたると一寸逃れられなくなりますね。ただ彼の作品が表に出ることが極端に少なく(特に日本では)、彼が亡命先のハリウッドで映画音楽の作曲家としてシンフォニックな手法を導入した功績が云々されても肝心の作品が「ロビンフッドの冒険」とか海賊物とか活劇中心では彼の才能が発揮されたとは言い難いようです。
コルンゴルト関連のDVDソフトとしてはTDKコアから「アンネ・ゾフィー・フォン・オッター:コルンゴルトの音楽」が市販されているのをご存知かと思いますが、未だお持ちでない方がいらっしゃったらこれはお勧めです。特に終曲の「マリエッタの歌」(死の都:第1幕より)でのオッターの歌唱は絶品です。

Posted by: Unicorn(ユニコーン) | May 04, 2008 23:44

ユニコーンさま

お久しぶりです。私も「死の都」は観たいと思っていたオペラなのですが、ウィーンでも上演回数が限られている上に、わざわざでかけるほどの勇気もなく、延び延びになっておりました。

実際、今まで観た皆さまのご感想通り、非常にすばらしいオペラでした。ユニコーンさまがおっしゃるとおり、日本では、オペレッタも含めて、「定番もの」でないとお客さまが入らないためか、埋もれた名品が日の目を浴びることがなく、残念です。

実は、今回、ウィーンフィル+ガランチャで、マーラーの交響曲三番を聴く機会があったのですが、こちらもはまりそうな演奏でした。

Posted by: Feri | May 05, 2008 05:26

Feriさん(遅いレスで申し訳ありません)
4日のコンサート後ご一緒させて頂き、楽しい時間を有難うございました。
5日に念願の『死の都』に行けました。
2004年のプレミエの際は端の方だったので、Feriさんが言われる通り舞台で起こっていることが今一つ見えなかったのですが、今回は平土間前方の中央付近と絶好の位置で、2回目ということもあり、よく理解できました。(やはり良い作品には出来れば何度も接することが必要なようです)
歌手は、Denokeを筆頭に、なかなかでした。ただ、プレミエの際は、PaulにStephen Gould(4日にSiegfriedを歌っていました)、Frank/FritzにBo Skovhus(3日にFigaroの伯爵を歌っていました)という最強の布陣だったので、今回は声としては少し弱い感じがありましたが、Vogtの方が声質もPaulに合っているようで、性格をよく表現していたと思います。EicheのFritzは、特にピエロの格好をして悪戯を仕掛けるところ(司教もピエロが化けているようでした)などは、やはりあの悪魔的なSkovhusに一歩も二歩も譲るところがあり、もう一度Skovhusで聴いてみたいと思いました。Denokeは、素晴らしいの一言です。
来シーズンは3月に、今回と同じ布陣で再演されます。是非また行きたいと考えています。

Posted by: Steppke | May 12, 2008 22:02

Steppkeさま、お忙しい中、コメント、ありがとうございます。

また、ウィーンでは、まさか、当ブログをご覧のSteppkeさまとお会いできるとは、思っておりませんでした。こちらこそ、突然の乱入、失礼いたしました。

さすがに、プルミエをご覧になったSteppkeさまらしいご感想をありがとう宇ございます。私も同じ演目を複数回観ることが多くなりましたが、 出演歌手を比較できるため、何度観ても飽きることはありません(周囲の人に話すと、呆れられますが…)。また、同じ歌手でも、若手の場合、一年間での成長している姿を観ることができるので、ますます深みにはまっております。

とくに「死の都」のように日本では、なかなか観る機会のない演目は、どうしても出かけたくなりますね。

FeriもSteppkeさまのご感想を見て、2009年3月の「死の都」に心が動き出しました。

お忙しいこととは思いますが、またお気軽にお立ち寄りください。

Posted by: Feri | May 12, 2008 23:48

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