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October 27, 2008

番外編 ウィーン国立歌劇場来日公演「フィデリオ」

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10月26日、ウィーン国立歌劇場来日公演通算100回の記念公演となる「フィデリオ」が神奈川県民ホールで上演されました 。Feriは通算100回公演を狙った訳ではないのですが、やはりご縁があるんですねぇ。

今回のウィーン国立歌劇場来日公演で、唯一、横浜で開催となったのがベートーヴェン作曲の「フィデリオ」でした。Feriは、こちらも残念ながら現地で観たことがないので、直接的な比較ができません(現地では、2009年4月から5月にかけて上演されます)。

不正を働いた刑務所長に捉えられた夫に対するレオノーレの一途な愛を描いた「フィデリオ」は、モーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」とは対極をなすような作品ですね。

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Feriは26日の同公演初日を観ました。当日のキャストですが、指揮は小澤征爾、フロレスタン役がロバート・ディーン=スミス(Robert Dean Smith)、レオノーレ役がデボラ・ヴオイト(Deborah Voigt)、司法大臣ドン・フエルナンド役がアレクサンドル・モイシュク(Alexandru Moigiuc)、刑務所長ドン・ピッアロ役がアルベルト・ドーメン(Albert Dohnen)、看守長(牢番)ロッコ役が宮廷歌手のヴァルター・フィンク(Walter Fink)、牢番の娘マルツェリーネ役がイルディコ・ライモンディ(Ildikó Rainondi)、門番ヤキーノ役がベーター・イェロシッツ(Peter Jelosits)という面々でした。今回は、フロレスタン、レオノーレが共にアメリカ出身の方でした。なお、ゲネブロでもご紹介したように、藤原歌劇団合唱部が合唱協力として加わっています。

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ところで、現在、ウィーン国立歌劇場で上演されている「フィデリオ」は、オットー・シェンクによる非常にオーソドックスな演出で、安心して観ることができる作品に仕上がっています。

まず、舞台装置ですが、最近の国立歌劇場では珍しい「写実的なスタイル」で、刑務所の雰囲気を良く出していました。第一幕は刑務所の中庭ですが、高い塀や監視設備、地下牢などが良くできていましたね。当然、衣装も写実的なものです。第二幕第一場は地下牢獄ですが、暗いじめじめした雰囲気が良く出ていました。

そして、第二場囚人達が恩赦で開放される刑務所の中庭になるのですが、開放を祝うかのような明るい舞台になっており、好対照を見せていました(ここでは刑務所と外を結ぶ跳ね橋が下り、囚人の家族や恋人が中庭に一斉に入り、再開を喜び合うという感動の場面です)。Feri個人としては、ドイツ方式の近代演出よりは、こういったオーソドックスな演出・舞台装置の方が好きですね。

「コシ・ファン・トゥッテ」と異なり、大人数のオーケストラですから、序曲や間奏曲の見事なこと。とくに第二幕第一場と第二場の間に慣例により演奏される「レオノーレ3番」は、思わず聴き惚れてしまいます。特に弦の響きは、ドイツのような尖ったところがなく、見事なハーモニーでしたね。実は、ゲネプロの際は、ホルンのできが今ひとつでしたが、本番では見事に修正されていました(当たり前ですが)。

また、今回は、この演奏終了時、オーケストラが立ち上がって拍手を受けていました。オペラの途中で、オーケストラのメンバーが立ち上がるケースは珍しいですね。客席からも盛大な拍手が送られていましたが、小澤さんのイメージしたような演奏になったのでしょうかね。

ところで、今回の上演では、心配していたのが「拍手のフライング」幸い第一幕では、目立ったフライングはなかったのですが、第二幕第一場終了時(フロレスタンとレオノーレが地下牢で抱き合って幕が下りる場面)、客席から拍手がわき上がってしまいました。本来は、幕が閉じるとすぐ「レオノーレ3番」の演奏に入りますから、拍手は禁物の場面なのですがね。

歌手では、看守長ロッコ役のヴァルター・フィンクが良い味を出していましたね。宮廷歌手の面目躍如といったところでしょう。こういうベテランが脇役に入ると、本当に舞台が締まります。また、歌う場面は比較的少ないマルツェリーネ役のイルディコ・ライモンディ(この人も宮廷歌手ですが)も、ベテランながら丸顔なので、娘らしいかわいい感じ出ていて良かったですね。

さて、タイトルロールのフィデリオことレオノーレ役(男性に変装している時はフォデリオを名乗るわけですが)のボラ・ヴオイトですが、声量は十分あり、第二幕のフィナーレ部分でも合唱に埋もれることなく、見事に歌いきっていました。また、第一幕第二場、フロレスタン殺害についてピツァロとロッコが言い争っているのを隠れて聞いていたフィデリオが満身の怒りを込めて「悪者よ、どこへ急ぐ」と歌う場面は、レオノーレの固い決意が表される熱狂的なアリアですが、ここも見事でした。
意志の強い女性という雰囲気は良く出ていましたが、顔立ちの関係からか、ちょっと壊そうな感じですね。とくに地下の牢獄で、夫のフロレスタンを殺害しようとやってきた刑務所長ピツァロに対して“まず、妻から殺せ”と迫る場面は、本当にアルベルト・ドーメンが押されていました。なお、歌のせいかもしれませんが、高い歌唱テクニックで観客を魅了するタイプの歌手ではなさそうです。

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男性陣で良かったのは、フロレスタン役のロバート・ディーン=スミスです。とくに第二幕第一場、地下の真っ暗な牢獄で朗々と歌う場面(「ああ、なんと暗い所なんだ!」から「人の世の春に、幸福は私から逃げ去った」と続きます)があるのですが、ここが最高ですね(というか、ここからしか登場しませんからねぇ)。最初のうちは、舞台が真っ暗なので声だけしか聞こえないため、非常に印象深いシーンになっていました。ちなみに、ゲネプロの時は、本当に真っ暗で姿が見えなかったのですが、本番では照明を加えて、フロレスタンの表情も見えるようになっていました。このほか、第二幕第二場で、釈放され明るい中庭に出てきたとき、開放の喜びを爆発させる演技も、見事でしたね。

ところで、第二幕第二場では、ゲネプロ編でもお伝えしたように、藤原歌劇団合唱部の日本人メンバーと国立歌劇場合唱団メンバーのコラボレーションでしたが、違和感なく仕上がっていました。また、ゲネプロで指摘されていた「動きの問題」も解消されていました。

ところで、「フィデリオ」のお話は、イタリア・オペラのような「ひねり」がない、わかりやすいお話ですね。観ていて、ふと思ったのが、イタリア・オペラだったら第二幕第一場で、レオノーレとピツァロが対峙し、司法大臣の到着でいったんは殺害をあきらめたピツァロが、フロレスタンと抱き合うレオノーレに襲いかかり、二人が差し違える。クサリにつながれていたため、それを阻止できなかったフロレスタンは、我が身の無力を嘆いて自害。そして、一部始終を見ていたロッコは、“神に御慈悲はないのか”と嘆き崩れる…みたいな悲劇になるでしょね。
少なくとも、地下牢でレオノーレとフロレスタンが再開し、抱き合った場面(ちょうど一場の終わり)で余韻を残した終わり方になるような気がしました。

それに対して、ベートーヴェンは、「はいはい、ここからフィナーレに向けて、一気に盛り上げますよ」と言わんばかりの大迫力な間奏曲「レオノーレ3番」(これは、劇中で聴くと、正直長いですよね)をぶつけてきました。そして、第二場では、大合唱段も加わって、夫への深い愛情を行動で示し、夫を解放したレオノーレに対する賛歌(正に「歓喜の歌」ですね)で讃えあげる(それも、合唱が比較的長い)…というまぁ、肩に力が入りまくったエンディングです。
「これが理想の女性像だ」という明確なベートーヴェンのメッセージが伝わってくる作品ですね。でも、当時は、もしかすると、ちょっと方に力が入りすぎて、ついて行けないなぁ…と思った人がいたかもしれません。冗談はさておき、ベートーヴェンの情熱がひしひしと伝わってくるオペラであることには違いありません。

さて、10月26日の「レオノーレ」はウィーン国立歌劇場来日公演通算100回の記念公演となりました。そのため、通常のカーテンコールの他に、「通算100公演達成」の横断幕が下りてきて、舞台上でホーレンダー氏も特製のはっぴをまとって加わり、お祝いの鏡開きが行われていました(お客さまへの振る舞い酒はなし。残念… )。また、オーストリアの方がビデオ撮影をしていました。ただし、テレビクルーかどうかは、わかりません。もしかしたら、国立歌劇場側が100回記念で、記録を撮影していたのかもしれません。

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ところで、当初、「コシ・ファン・トゥッテ」は3公演の予定だったようです。ところが、そうすると27日のムーティ指揮の「コシ・ファン・トゥッテ」が通算100公演目になってしまいます。そこで、運営サイドで音楽総監督の小澤征爾氏が指揮する演目が100公演目に当たるように、「コシ・ファン・トゥッテ」を1回追加(23日のマチネ)したのだと思われます。

さて、次はいよいよお楽しみ、グルベローヴァ主演の「ロベルト・デヴェリュー」です

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