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December 07, 2008

「一枚のディスクに」

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今日はウィーンと関係のある「 興味深い本」のお話です。

先日、ウィーン滞在中、現地にお住まいの方と一緒に市内を歩いていたとき、“そういえば、この近くにカメラータトウキョウさんが、レコーディングしているスタジオがあるけれど、知っている?”という話がありました。Feriは知らなかったのですが、お話を聴くと「バウムガルテン」という施設で、昔はカジノだったとか…

で、その話の続きなのですが、“そういえば、Feriさんは、カメラータトウキョウの井坂社長が書いている本は読んでいるよね”という話になりました。実は、お恥ずかしながらFeriは読んでいなかったので、遅ればせながら、日本に戻ってから、さっそく手に入れました。

一枚のディスクに レコード・プロデューサーの仕事」という本で、春秋社から2006年8月に出版されたものです。

内容は、月刊誌の「レコード芸術」(音楽之友社)に連載されていた記事を、再編集したものですが、非常に興味深い内容が綴られています。

四部構成になっており、第1部が「レコード録音という芸術」、第2部が「名プロデューサーたち」、第3部が「プロデューサーの仕事 アーティストとともに」、第4部が「プロデューサーの仕事 録音から編集まで」といった内容です。

具体的には、レコード制作におけるプロデューサーの役割、著名なレコード・プロデューサーと著者の出会い(レコード制作におけるプロデューサーの重要性がよくわかります)、レコード制作の現場での様々な試み、録音に使うホール、録音機器にまつわる話など、レコード制作の現場で永年働く筆者ならではの切り口で、様々なエピソードが紹介されています。

本書を読んで、一番ショックだったのは「生演奏とレコードは、本来、違う芸術である」という点です。私たち、音楽愛好家は一般的に「レコードは、生演奏の代替手段」という考え方に陥りがちですが、著者は、「実は、全く別の芸術である」と指摘しています。

確かに言われてみれば,その通りです。この内容を端的に表すエピソードとして、レコーディングの際、著者はアーティストに対して「コンサートでは演奏の途中で止まるわけにはいかない。だから難しいパッセージを本当はもっと速く弾きたくても、失敗が許されないコンサートでは、やはり安全を考えて、危険な速いテンポは避けた方が良いだろう。ただ、レコーディングなら、あなたが途中で止まっても誰も咎める人はいない。危険を承知で、自分が求める表現にトライした方が良い」と呼びかけているという話です。確かに、聴衆を前にした生演奏では、途中で止まるわけにはいきませんから、どうしても安全優先の演奏になるでしょう。

興味深いのは、カール・ラスターによるクラリネット演奏のレコーディングにまつわるエピソードです。このレコーディングでは、数種類のピースを楽章ごとに使い分け、各楽章で理想的な音色が出るように、仕上げたというのです。これなどは、絶対にライブでは不可能な技でしょう。このケースでは、奏者とプロデューサーが目指した「理想的な演奏」を実現するため、12分の音楽に、吹くだけで6時間もかけたとか(つまり、テイクを重ねたということですね)。

また、筆者はあえて、「レコード・プロデューサーは映画監督と同じ立場である」という指摘をしています。確かに、本書を読むと、まさしく仕事内容は映画監督と良く似ています。ところが、映画の場合は、スピルバーグやルーカス、黒澤 明のような監督が前面に出た作品が多数存在するにも関わらず、レコード(CDを含む)では、「○○プロデュース」という作品は余り見かけません。

このほか、ライブ録音の落とし穴や、安易なライブ録音(プロデューサーの意志が入らないで制作されたもの)がCD業界を衰退させる危険性があるという指摘も、納得できるものがあります。

このような話が続きますから、「目から鱗が落ちる」ことの連続でした。

ところで、音楽の場合、録音ではライブ特有の「アウラ」がでないという考え方があります。このアウラとは、動く空気、微風といった意味のギリシャ語ですが、要するにライブ特有の美的陶酔といったニュアンスでしょう。しかし、著者は現代のレコード制作においては、ライブでは味わえないアウラが立ち上るとも述べています。たしかに、優秀なプロデューサーにかかれば「アウラが立ち上る録音」は実現できると思います。

本書を読むと、グルベローヴァがライブ録音ではなく、スタジオ録音にこだわっている理由も、わかるような気がします。

最近では、「レコード」という言葉をほとんど聞かなくなりましたね。ちなみにFeriはオーディオ・ファンなので、学生時代、アルバイトをしてはオーディオ機器を買っておりました。大学時代の友人にオーディオ・ファンが多かったこともあり、結構、お互い、機器には投資をしていました(電気工学科だったので、そういうヤツが多かったのかもしれません)。いわゆる「通好み」と呼ばれるメーカーの機器を選んで買っていました。ちなみに、ダイレクトドライブのターンテーブル(レコードプレーヤーですね)には、別売のアームとカートリッジを取り付けるという凝りようでした。

当時は、まだCDが出てくる前ですから、いかにレコードを良い音で再生するか、仲間と色々と話をしたことを思い出します(クラシックとジャズ、ポピュラーでは、適切なカートリッジが違うのですよね)。また、テープデッキについても、やっとコンパクトカセット仕様で音楽用に使えるレベルの製品が登場し、世界最高のカセットデッキが日本で誕生した時期でもあります。最近では、手軽に良い音で音楽を聴くことができるようになり、時代の変化を感じる今日この頃です。

現在では、制作コストを削減するため、クラシックでもプロデューサーがあまり関与しないライブ録音が増えてきました。その上、オンライン配信などにより「音楽は、一過性の消費されるもの」になっています。
それだけに「一枚でもいい、素晴らしいレコードを作って、皆に示すことだよ」という名プロデューサーであったウォルター・レッグの言葉が印象に残ります。

最後に「The Art of Recording」という英文タイトルに著者のレコード制作にかける「思い」が込められているように感じました。


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Comments

映画を語る時、それがレベルの高い作品であればあるほど我々はジョン・フォードの「荒野の決闘」「静かなる男」とか、デヴィッド・リーンの「逢引き」「旅情」などと監督の名前を冠して呼んでいました。確かにレコード、CDの世界ではプロデューサーの名前が実質的に表に出ることはありませんね。過去にカラヤンが製作現場に積極的に口出しして毀誉褒貶色々ありましたが、答えの出ないままでした。レコードプロデューサーの仕事がどの範囲まで及ぶのか知らない私ですが、もしそれが技術的なことにウエイトがあるのなら映画の仕事とは次元の違う問題で比較するのは無理があると思います。
それにしてもひと頃ひたすらハイフィディリティーを追い求めたオーディオの世界もいつの間にか「作られた音」の溢れる時代となってFeriさんのような古くからのオーディオマニアにはご不満なことと思います。
ところでFeriさんがオーディオマニアと知っての厚かましいご相談ですが、我が家のオーディオラックには例えばオープンリール型録音デッキ「AKAI・77」なんてかっての名機が未だに鎮座しております。さすがに日常使用はしておりませんが、こんな時代物は早晩瓦礫ごみで処分するほか無いのでしょうか。またLPレコードもクラシックからシャンソン、落語まで500枚以上持っておりますが、これを如何するかでも悩んでおります。ごみ焼却場行きは避けたいのです。昨年大病して以来、特に気になり始めました。お知恵拝借出来たら嬉しいのですが・・・。

Posted by: Unicorn(ユニコーン) | December 07, 2008 16:28

ユニコーンさま

コメント、ありがとうございます。ぜひ、本書をお読みになることをお勧めいたします。私は、本当によい録音というのは、演奏家とプロデューサーの協同作業であるということがよくわかりました。カラヤンについても紹介されていますが、私が以前持っていたイメージとは違いましたね。

さて、オーディオの件ですが、AKAIのテープデッキ。昔、私の自宅にもありました。懐かしいですねぇ。

で、ご相談の件ですが、以前、私の知り合いがインターネットオークションにコレクションのレコードを出品したところ、お好きな方が引き取ってくれたという話をしていました。今でも、レコードが好きなコレクターというのは一定以上いらっしゃるようなので、ネットオークションが以外と良いのかもしれません。
なお、これは出品者の考えですが、私の知り合いは、あえて「ノークレーム」ではなく、「不満があった場合、返品可」で出品し、逆に信用を得たようです。

ご参考になれば幸いです。

Posted by: Feri | December 07, 2008 17:21

厚かましいご相談に対して早速お返事くださり有難うございます。
ネットでは買ったことはありますが売った事はありませんのでよく研究してみます。出来たら身近な人に譲りたいのが本音ですが、悔いの残らないようにしたいです。ネットにかけるとしたら例えばドヴォルザークなら全交響曲から室内楽までありますので作曲家別のテーマで出品するとかした方が良いかもしれませんね。いずれにしても一枚一枚に思い入れがありますので火葬(ごみ焼却場送り)には絶対にしません。

Posted by: Unicorn(ユニコーン) | December 07, 2008 21:13

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