« 「録音の現場」から…(中) | Main | スーパー・ワークショップにフォルクスオーパーが出展 »

March 06, 2009

「録音の現場」から…(下)

Img_9661_001

さて、今日も cd バウムガルテンでの「レコーディングの続き」をお届けしましょう(左の写真はレコーディング風景を記録する井阪社長です)。

マイクの微調整が終わると、さっそくテイク2が始まります。ご存知の方も多いと思いますが、今回、レコーディングされた「無伴奏チェロ・ソナタ 作品8」は、演奏時間は短いものの、非常に高い演奏技術を要求される作品です。

そのため、ここから楽章ごとの修正が始まります。見学をしていて非常に興味深かったのは、演奏の修正に関する井阪プロデューサーとヴォルガさんとのやり取りです。当然のことながら、プロデューサーと奏者の間に信頼関係が確立されていないと、無用な対立が起こってしまいます。ここが、まず重要な点でしょうね。

修正して良くなった箇所を確実に指摘した上で、別の修正を依頼するという形で進んでいきました。正に「職人(マイスター)の世界」ですね。修正箇所も、演奏のテンポ、演奏の強弱など多岐にわたっていました notes

レコーディング後のチェックでは、プロデューサーと奏者の双方がNO、プロデューサーはOKでも奏者NOというケースもあり、その都度、パートごとの録り直しが行われます。Feriは、素人ですから、テストレコーディングの演奏でもすばらしいと感じたのですが、テイクを重ねていくごとに、演奏の奥深さを実感することができました。テイクを重ねるごとに、明らかに演奏に磨きが掛かってくるのです。このあたりは、いわゆる生演奏をホールで聴くのとは、明らかに違うことがよくわかります。

ただ、ウィーンフィルの奏者とはいえども、人間が演奏している訳ですから、磨きが掛かったところがある反面、別のところが物足りなくなる…という場面にも遭遇しました。

観客の前で演奏する生演奏では、リスクがありますから、ここまで挑戦的な演奏はできないと思います。短い曲とは言え、後半は疲れてくるため、力強さに欠けてくることがあるのですが、録音の場合、「後半だけ」演奏することも可能ですから、全ての部分で「高度な演奏技術を余すところなく披露することが可能だ」ということが、よくわかりました。
下の写真は、スタジオで修正箇所の打合せとマイク調整中の模様です。正に「プロフェッショナルの仕事」を肌で感じた瞬間でした。

Img_9668_001

余談になりますが、グルベローヴァがオペラのスタジオ録音にこだわっていたのも、もしかしたら「ライブでは不可能な全編にわたった完全な歌を披露したい」という考えに基づくものだったのかもしれません。

とにかくプロデューサーが妥協してしまえば、簡単に終わるのでしょうが、それでは「名盤」は生まれません。完成イメージを高い水準において、プロデューサー、バランスエンジニア、奏者の協同作業でレコーディングが行われていました。実際に見学させていただいたことで、「一枚のディスクに」でも紹介されていた「奏者とプロデューサーの協同作業」(レコード芸術)のイメージが明確になりました。

Feriが一番心配したのは、“路面電車の走る道路に面している普通のホールで、生活ノイズが入らないのだろうか”という点です。レコーディング中、バランスエンジニアはヘッドホンでノイズをチェックしていますが、実際、ノイズで録り直しになったのは、ごくわずかでした。それも車や路面電車の騒音ではなく、上空を飛ぶ飛行機のノイズだったようです。

大変失礼な言い方になりますが、このような一見すると「場末のホール」のような所で、このような名録音が創られているというのは、正直驚きましたね(それよりも生活雑音が入ってこないことが信じられませんでした)。

休憩を挟まずに約2時間、同じ曲の録音が続きましたが、さすがにヴォルガさんも精神的、体力的にも限界が来てしまい、気分転換のため休憩をとることになりました。今回はソリストのレコーディングでしたが、これがアンサンブルやオーケストラになったら、想像を絶するようなワークになると思います。当然、奏者の拘束時間も長くならざるを得ません。これが、最近、オーケストラやオペラでは、ライブレコーディングが増えている要因だそうです(ちょっと残念 weep )。

Feriを始めとする見学者は、このタイミングでバウムガルテンを後にしたのですが、この段階でも双方が真に満足するレコーディングは出来ていなかったようです。下の写真は、バウムガルテンの「裏口」です。ここからビュフェを経由してスタジオやモニタールームに入ります。本当に、ここで録音をしているのか…と思ってしまうような「たたずまい」です coldsweats01 。なお、この写真で、「左側のカーテンがかかっている部分」が、モニタールームになっています confident

Img_9673_001

実際には、この後、レコーディングした演奏から、どの部分を採用するかを決めて、編集作業に入る訳ですから、製品として完成するまでには、まだまだ時間がかかります coldsweats01

ともすると、演奏は生が最高で、CDなどは「生の代替手段」と考えがちですが、実際にレコ^ティングの現場に立ち会ってみると、同じ音を取り扱っているものの「録音と生は全く違う芸術である」ということを実感できました。

私たちが日常、何気なく聴いている cd CDですが、実はスタジオレコーディングの場合、ここまで徹底して作り込んでいることを、直に見ることができ、CDやレコードに対する印象が大きく変わりました。これだけの時間と労力を掛けて丹精込めてつくられているCD、そう考えるとお値段は決して高くはないと思えるようになりました confident

|

« 「録音の現場」から…(中) | Main | スーパー・ワークショップにフォルクスオーパーが出展 »

Comments

興味深いレポートをありがとうございました。

スタジオ録音とライブの違いを最も重要視していたのがカラヤンである旨は聞いた事があります。
ライブはライブでハプニングがあったり、ズレたり(笑)、面白い部分も多いのですが、完璧な音を目指した CD は、Feri さんのおっしゃる通り、全く別モノですね。

そう言えば、ティーレマンがインタビューで
「今の聴衆は、スタジオ録音の完璧な演奏に耳が慣れていて、コンサートに過大な要求をする」と、ちらっと言っていましたが、確かにそうだと思います。

ライブ録音版の CD は「一回で2回分美味しい(←音楽家にとって、です(笑)」みたいな感じがするので、私は苦手。

スタジオ録音は、やはり、それなりに、記録としての「完璧さ」がありますよね。音楽家にとっては、コンサートよりキツイらしく、私の数少ない知り合いの音楽家も CD の録音が終わった後はヘロヘロになっています。

Posted by: はっぱ | March 06, 2009 at 10:52 PM

はっぱさん、お久しぶりです。

実際、レコーディングを見学して「ライブ演奏とレコーディングは別物」というのが、よくわかりました。実は、生を聴く(観る)場合は、その他のファクターが入るため、違う魅力がありますよね。

その点、レコードやCDというのは、全く違う環境で音だけ聴く訳ですから、聴き手の受け止め方も異なるでしょう。

ところで、ライブレコーディングでも、実際にはゲネプロを始め、何回か録音をしておき、組み合わせるそうです。ですから、ライブ版でも録音日が数日にわたっているケースが一般的ですよね。うぅーん、奥が深い。

それでは、また heart04

Posted by: Feri | March 06, 2009 at 11:22 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« 「録音の現場」から…(中) | Main | スーパー・ワークショップにフォルクスオーパーが出展 »