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June 01, 2009

格の違い グルベローヴァが「ルチア」に登場

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当ブログの読者の皆さまでしたら、「なぜ、記事がアップされないのだろう」と思われたかもしれません。
ウィーンのグルベローヴァが来るとき、なぜか、そこにいるFeri  お待たせしました。「ルチアのレポート」です。

2008/2009シーズンの最後で注目される公演は、なんと言ってもグルベローヴァが出演する「ルチア」でしょう。

今回は、3公演でしたが、いつもにも増して公演チケットが取りにくく、人気のほどがわかります。当然、立ち見もベテランファンが多く、大盛況でした

なんと言ってもウィーンでは2007年5月以来、2年ぶりの「ルチア」ですからねぇ。しかも、「次」があるという保証はありません。実は、非公式な情報では、今後、ウィーンでは「ルチア」への出演が予定されていません。ということは、本当に「これが最後」になる可能性があるのです

Feriが観た5月28日の「ルチア」は148回目の公演です。指揮は前回(2007年5月)のグルベローヴァ公演でも振ったPaolo Arrivabeniが担当しました。その他のキャストは、エンリーコ役はBoaz Daniel、エドガルド役はMatthew Polenzani、アルトゥーロ役はGergely Németi、ライモンド役は Dan Paul Dumitrescu、アリーサ役がJuliette Mars、ノルマンノ役がPeter Jelositsという面々でした。

ただし、エンリーコ役のBoaz Danielとエドガルド役のMatthew Polenzaniは国立歌劇場での同演目、初出演でした。結構、冒険をしますね。

さて、演出や舞台装置は、前と全く同じです。第1場の最初、ちょっと合唱とオーケストラのコンビネーションが良くなかったように感じましたが、これは珍しいですね(1場の後半からタイミングが合ってきましたが)。

注目のグルベローヴァが登場するのは、第2場からとなります。ここは、ルチアとエドガルドが二人で歌う唯一の場面なので、前半の見所でしょう。最初にグルベローヴァが登場。国立歌劇場では珍しいことに、舞台に登場した瞬間から拍手とブラヴァ…お客さまが異様にハイテンションでした

さて、改めて観ると、実は「狂乱の場」の伏線は第2場からあることがわかります。兄が進める政略結婚に乗り気でないルチアの心が病んでいることが、この段階ではっきりとグルベローヴァの演技を通じて伝わってきます。だからこそ「昔ある男が恋人を刺して泉に沈めた、自分はその女の亡霊を見た」とアリーサに伝える場面に臨場感があるのでしょう。これぞ、グルベローヴァ、迫真の演技、第2場から絶好調でした。

第3場、兄のエンリーコはエドガルドの不実を証明する「偽の手紙」を用意し、アルトゥーロとの結婚を拒むルチアに「偽の手紙」を見せ、一族を破滅から救うためにアルトゥーロと結婚するよう強要する場面です。ここでも、信じていた恋人に裏切られた、しかし実は恋人を心の中で信じているという女心を見事に表現していました。失礼ながら、実際のお歳とはかなり離れているのですが、役に入りきっていると、若い娘に見えてくるから、すごいものです。

第4場は、ルチアとアルトゥーロの結婚式と、そこへエドガルドが乱入して、イチャモンをつける場面です。第4場は合唱団の出演も多く、陰惨な殺人事件の前の「華やかな舞台」なので、前半の山場といっても良いでしょう。なお、ここでのカーテンコールは、合唱団も全員登場して行われています。

休憩後は、エドガルドがアルトゥーロに決闘を申し出る第5場から始まります。以前、サバッティーニが登場した時は、第5場が省略され、いきなり第6場になったという事件があったのですが、今日は予定通りでした。

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さて、第6場、「狂乱の場」は、グルベローヴァの独壇場。歌はもちろん、演技が、見事…。第2場から気持ちが揺れ動き、ついに精神的に追い詰められて、夫アルトゥーロをベッドで殺してしまったという状況が見事に再現されていました。完全に「気が触れた女性」になりきっています。前回、ネトレプコの「ルチア」を観ましたが、明らかに「格の違い」が歴然としていました。ご本人はキャリアの違いがあるので、意識していないでしょうが、観ている方はやはり意識してしまいますよね

「狂乱の場」終了時の拍手がすごかったこと…久しぶりだが、やはりすごいものがあります。今回もグルベローヴァがアカペラで歌い始め、「フルートとの掛け合いの場面」あたりからは、指揮者は何もせず、完全に任せていました。毎回感じますが、このフルート奏者は、すごいプレッシャーでしょうね。ここで転けたら、オペラのハイライトが台無しですから…

その他のキャストですが、エドガルド役のMatthew Polenzaniは、なかなか「イケメン」の歌手で、声量も十分あり、初登場ながらグルベローヴァのお相手にふさわしい仕上がりだった。エンリーコ役のBoaz Danielも良い味を出していました。全般的にレベルがそろっていて、安心して観ることができる公演に仕上がっていました。

当然のことながら、お開き後のカーテンコールのすごいこと…そういえば、グルベローヴァの場合、比較的ご年配のファンが多いように感じます。「熟年の星」といった感情移入もあるかもしれません

余談ですが、「ルチア」の場合、最後のカーテンコールでは、ルチア役は死んでしまったときの「血のついたネグリジェ」で出てくるので、何となく、違和感がありますよね。他の出演者はちゃんとしているだけに…これだけは、こういうお芝居なのだからしょうがないのでしょうが…

今後、予定の変更がなければ、ウィーン国立歌劇場の「ルチア」にグルベローヴァが出演することはなさそうです(他の劇場では予定されていますが…)。また、完璧主義者のおばさまですから、それ以外でも明らかに問題が生じてくれば、キャンセルという可能性もあります。それだけに「観ることができる時に観ておく」ことがベストでしょうね

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Comments

feriさん、saraiです。こんにちは。
詳細なレポート、ありがとうございました。
まったく、完璧に頭のなかでその夜の公演がイメージできました。グルベローヴァの狂乱の場の演技と歌が聴こえてきたかのようです。
前回の公演でsaraiが聴いたときは前半は今ひとつでしたが、今回は前半から絶好調だったようですね。
saraiは昨年のドレスデンでコンサート形式ながら、ベストのグルベローヴァのルチアが聴けたので、もう卒業です。思い残すところはありません。
それにしても、あのお年でさらに歌に演技に磨きがかかるのは驚きですね。カラスが失意のうちにパリの自宅で亡くなったのは53歳くらいではなかったでしょうか。
saraiは格下?のネトレプコのルチアをまだ聴いていないので、今後、彼女が精進してグルベローヴァを超える日を楽しみにしたいと思います。
それにしても、feriさんはよくチケットが取れますね!

Posted by: sarai | June 01, 2009 10:30

saraiさま、コメントありがとうございます。

グルベローヴァも以前に比べると声の艶などは落ちていると思います。当然、ご本人もそのことは一番知っているわけで、その分を演技も含めた総合力(歌唱技術を含む)でカバーしようとしていると思われます。

とにかく歌のために、ご自分の生活を徹底的に節制しているのは有名ですが、今の歌手の皆さまはちょっと真似ができないようです。

以前と異なり、CD販売も含めた総合プロモーションの時代になり、言葉は悪いですが「歌手が消耗品」のように扱われるようになったので、今後、長く活躍できる歌手は減ってくるのでは…と危惧しています。

チケットの件ですが、今回は、正直、ダメかと思うほど、すさまじい争奪戦でした。今まで発売初日に速攻でWebで予約を入れれば1枚は何とかなるというケースが多かったのですが、今回はそれもきつかったですね。今回は、たまたまとれた…というのが正直なところです。

Posted by: Feri | June 01, 2009 15:00

フェリさん、とても興味深く読ませていただきました。

ロンドン在住のオペラファンです。
以前は毎年クリスマスシーズンにウィーンに行っていましたが、この数年は足が遠のいてしまってました。記事を読んで、またウィーンに行きたい気持になりました。

ルチアといえば、日本人ソプラノ田村麻子さんのルチアをご覧になった事はありますか?ハンガリー国立歌劇場ではカーテンコールで聴衆総立で拍手・足踏の嵐だったようで(Youtubeの画像で見れます!)、私はイタリアのカリアリ歌劇場で田村麻子さんのルチアを見てきました。私の後ろに座っていたイタリア人初老夫婦は「日本人にルチアは歌えない…」と開演前にぶつぶつ。
ところがカーテンコールでは会場中が大騒ぎで、なぜか私にまで握手を求めてくる人たちが殺到しました。「アサコの友達でしょ?素晴らしかったと伝えて」と。くだんの初老夫妻も「実は前日にディビーナのルチアを見たけど、正直言ってアサコの方が良かった」と、わざわざ話しかけてきたほどです。

ロンドンでは、ドミンゴがボカネグラを歌う予定で、昨年からずっと話題になっています。でもチケットの入手はかなり難しそうです。ボカネグラのキャストが発表された時点で、コベンドガーデンに問い合わせましたが「発売は来年だけど、普通じゃチケットは買えないと思いますよ。今からフレンズ(同劇場のパトロン)になって優先権を入手しても保証はできない状況です」と言われました。
BBCが放映する可能性があるかもしれないので、そちらを期待。

Posted by: Suki | January 09, 2010 03:20

Sukiさま、ロンドンからのコメント、ありがとうございます。

>田村麻子さん
お名前は聞いたことがありますが、残念ながら実際の公演は観たことがありません。最近は日本人の歌手で優秀な人が沢山、本場で活躍していますね。ただ、日本国内ではあまり紹介されるケースが少ないようで残念です。

ロンドンといえば、今秋、ロイヤルオペラの来日公演があります。演目は「マノン」と「椿姫」だそうですが、「マノン」にはネトレプコがタイトルロールで出演する予定です。恐らく、日本国内のオペラ公演では、これが一番話題になると思います。

これからも、よろしくお願いいたします。

Posted by: Feri | January 09, 2010 09:08

フェリさん、

2月にヴェローナのアレーナ・オーケストラが引越公演でドミンゴとともに来日すると思いますが、田村麻子さんも客演する可能性があるかも?田村さんはヴェローナのオケともドミンゴとも縁が深いので…。

コベンドガーデンは演出、舞台が洗練されているので(引越公演で同じように出来ないとは思いますが)、個人的にはとても好きです。ネトレプコのマノンなら、男性がフラフラしてしまっても納得がいきそうですよね。

英国だと英語で歌うENOも演出が面白いです。先日までやっていたトウーランドットでは、舞台は中華飯店、ピン・ポン・パンは必殺料理人で肉切り包丁を振り回し、求婚者は文字通り厨房で首を切られ、首のない死体が厨房にズラーッとフックでぶら下がっている!すざましい内容でした。ENOのルチアでも、ルチアが近親相姦の被害者である…みたいな示唆がありましたし。

では!

Posted by: Suki | January 12, 2010 21:38

Sukiさま、興味深い情報提供、ありがとうございます。

まず、ドミンゴさんが出演する「ARENA DI VERONA」ですが、残念ながら田村さんはご出演にならないようです。

ところで、今秋来日するロイヤルオペラの「マノン」ですが、招へい元のNBSさんの情報では、今年6月に現地で上演される新演出版だそうです。
ネトレプコ嬢ですが、ご出産後、ふくよかになり、ちょっとイメージが変わってしまいました。そのためか、ビデオにもなっている「椿姫」には、もう出演しないと言っているそうです。

>先日までやっていたトウーランドットでは、舞台は中華飯店、ピン・ポン・パンは必殺料理人で肉切り包丁を振り回し、求婚者は文字通り厨房で首を切られ、首のない死体が厨房にズラーッとフックでぶら下がっている!すざましい内容でした。ENOのルチアでも、ルチアが近親相姦の被害者である

すごい演出ですね。怖いもの見たさ…というのもありますが、私は、オリジナルから極端に逸脱した演出は好きになれません(あくまでもFeri個人の見解ですが )。

また、興味深い情報がありましたら、お知らせいただければ幸いです。

Posted by: Feri | January 12, 2010 22:05

Feriさん、saraiです。

ネトレプコが話題になっているので、出てきてしまいました。
ルチアで格下に断じられたネトレプコ(なんだか、うらめしい?)ですが、どうしても生で見るのを待ち切れずに銀座の映画館にMETビューイングを見に行きました。
で、暗い映画館をいいことに最後は感涙してしまいました。例のとおり、出だしは調子が出ませんでしたが、2幕目以降は出産前の美貌とそれに天使の美声でよかったこと、この上なし。それに期待していなかったビリャソンの代役ベチャーラがしり上がりに好調になり、終幕(普通はつけたし?)もこれまた泣かされました。
結論としては、お二人(グルヴェローヴァ、ネトレプコ)は当然、別の個性があり、それぞれ、格段に素晴らしいソプラノだということです。

椿姫に今後出演しないのは残念ですが、saraiは出産後に見ましたが、見栄えはともかく、素晴らしい歌唱でした。まあ、満足したのでいいかなって感じです。

Sukiさんの貴重なロンドン情報も興味深く拝見しています。まだ、コベントガーデンには足を踏み入れていないので、いずれはと思っているところです。

では。

Posted by: sarai | January 13, 2010 09:22

saraiさま、コメント、ありがとうございます。

>結論としては、お二人(グルヴェローヴァ、ネトレプコ)は当然、別の個性があり、それぞれ、格段に素晴らしいソプラノだということです。

私もその通りだと思います。あと、オペラ歌手の場合、「キャリアの差」というものも大きいと思います。経験を積むことで、磨きがかかる部分もありますので。

Feriもネトレプコ嬢を生で観たのは、出産後でした。体型がふくよかになった感じはしましたが、声は相変わらずすばらしかった(といっても、その前をライブで観ていませんが…)という印象です。やはり「華のある歌手」という印象は強く持ちましたね。

ウィーンものではありませんが、今秋のロイヤルオペラの「マノン」が楽しみですね。

その前にウィーンでは、2009/2010シーズン最大の話題、ガランチャ+ネトレプコの「カルメン」がありますね。これはプラチナチケットになりそうで、入手は非常に難しいでしょう(お金を出せば入手できるかもしれませんが)。

そういえば、ネトレプコさん、今までの旧市街の高級マンションに加えて、ウィーン郊外に立派なお屋敷を手に入れたという話を耳にしました。

Posted by: Feri | January 13, 2010 09:41

皆様、どーも。

ネトレプコであれば、若干太っても美しそうですよね。カラスも、個人的にはふっくらしている時の方が綺麗だと思いましたし。

椿姫は肺病という前提があるので、確かにほっそりしていないと現実感がない、というのはあると思いますが…。コベントガーデンでゲオルギューが椿姫を演じた時は、涙が止まりませんでした。ゲオルギューは最初に音を打出すときに妙な癖があって、発声とかはあまり好きではないのですが、幕が進むと、本当に「ゲオルギュー=椿姫」になってしまい、感情移入しない方が難しかったです。彼女のリューでも泣いてしまいました。

演出は、フェリさんと同じであまりにも解釈が飛びすぎていると???なのですが、METやイタリアの一部のハウスの古典コテコテにはちょっと疑問も感じています。ポネルの演出は大好きです。東ドイツ系の演出家も面白いですね。イタリアオペラだと解釈の幅に限界があるので、あまり冒険はできないと思いますが、ワーグナーなら何でもありかな、という気もします。
前回ご紹介した田村麻子さんがイタリアでルチアを歌った時に、演出家(イタリア人)に、「歌う時は必ず客席に向かって歌うように」と指示されたそうです。ストーリー上不自然になる事もあり、結構大変だったとか。

英国はイタリア+アメリカのオーソドックスと北欧系前衛派の中間かもしれません。(ENOのように、完全に飛んでいるハウスもありますが)

では!

Posted by: Suki | January 14, 2010 02:46

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