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June 19, 2010

番外編 中丸三千繪さんリサイタル

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今週は「番外編大会」の様相を呈していますが、お許し下さい coldsweats01 。平素、「 notes 音楽の話題 notes 」はオーストリアのオペレッタまたはオペラが中心なのですが、今日は「イタリア歌曲を中心としたリサイタル」の模様をお伝えします。

リサイタルの主役はソプラノ歌手の中丸三千繪さんです。ご存知の方も多いと思いますが、中丸さんは、当時、「イタリア人以外からは優勝者は出ない」と言われていたマリア・カラス・コンクールで、1990年3月、見事、 crown 優勝を果たしたソプラノ歌手です。

中丸さんは、桐朋学年大学声楽科と研究科を卒業し、1986年9月、小樽征爾さん指揮の新日フィルによのリヒャルト・シュトラウス「エレクトラ」のタイトルロールでデビューしました(実は、この時の出演は「代役」だったそうです。代役が飛躍のきっかけになるケースが多いですね)。その時、小澤さんから“一日でも早くイタリアに行った方がいい”と勧められて、単身、イタリア行きを決心しました。

イタリアへ渡った中丸さんは、マリア・カラスさんと最も多く共演したメゾ・ソプラノ歌手ジュリエッタ・シミオナートさんが、スカラ座研修所でレッスンをしているという話を耳にします。ジュリエッタ・シミオナートさんのレッスンを受けたいと強く思った中丸さんは、何とスカラ座で「出待ち」をして、本人に弟子入りを直訴したそうです(このエピソードは、リサイタル当日も披露されました。車で帰るとこを割って入ったそうです。すごい根性です)。

幸い、シミオナートさんはオーディションをしてくれることになり、レッスン場で中丸さんは歌うことができました。その時のコメントが“日本人がよく来て歌うんだけど、みんな変なテクニックを覚えてしまっているの。おもしろいわね、あなたの声はぜんぜん教育されていない自然な声だわ”というものでした(“日本人はみんな変なテクニックを覚えてしまっている”という話はウィーンで声楽に関わっている方からも良く聞き話です。Feriは音楽の専門家ではないので、よくわかりませんが、どうやらヨーロッパと日本の教育方法に違いがあるようです)。そして、晴れて中丸さんは、熱望していたマリア・カラスさんの共演者であるシミオナートさんのレッスンを受けることができるようになりました。

それからほどなく、中丸さんはルチアーノ・パヴァロッティさんの師だったアリーゴ・ポーラさんのオーディションにも合格して、こちらのレッスンも受けています。正しくイタリア仕込みのソプラノ歌手ということが言えますね。

マリア・カラス・コンクールの当日にも、興味深いエピソードがあります。劇場の近くので中丸さんが練習していると、散歩で通りかかったコンクールの審査委員長であったマグダ・オリヴェーロさん(当時、すでに80歳を過ぎていましたが往年のプリマドンナ)が血相を変えて、部屋に入ってきたそうです。

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そして“どうして、そこをそんなふうに歌うのですか”とは中丸さんに詰め寄ってきました。中丸さんは、意味がわからずポカンとしていると、オリヴェーロさんは言葉では説明できないのか、自らお針子の娘ルイーズが一人の男性と知り合い、初めて愛を交わした日のことを忘れないと歌う「その日から」という愛の賛歌を歌い始めました。

マグダ・オリヴェーロさんの歌には、人を愛することの喜び、そしてそれと裏表の愛を失うことへの恐れからくる切なさまで込められていました。この歌は、「清潔に歌わなければいけない」という解釈が一般的だそうです。しかし、オリヴェーロさんの歌は清潔感を通り越し、天国的な美しさに満ちていたそうです。

中丸さんは、その姿にあっけにとられ、そのうちに目頭が熱くなり、やがて涙があふれ、その場で泣き崩れるくらい感動したそうです。オリヴェーロさんの全存在を賭けた素晴らしいレッスンが、中丸さんの音楽生活に大きな影響を及ぼしたとご本人が回想しています。これがマリア・カラス・コンクールの優勝にも大きく影響していうのでしょう。

ちなみに、コンクールの審査委員会からは“自分たちはそんなに長くないから、イタリアの伝統と様式美を21世紀の世界に伝えてほしい。その意味を託して全員一致であなたに決めた”というコメントがあったそうです。「イタリア声楽界の期待」を背負った瞬間だったことになります。その後のご活躍は、皆さまもよくご存知の通りです heart04

Feriはこういったエピソードを事前に仕入れていたので、中丸さんがイタリア・オペラのアリアをどのように歌うのか、非常に興味がありました。しかし、残念ながら、スケジュールが合わず、いままで聴くチャンスがありませんでした。今回、やっとそのチャンスが巡ってきたという訳です(まぁ、自分でチャンスを作らなかっただけの話ですが catface )。

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会場は東京・千代田区の紀尾井ホールでした。収容人数800名という中規模なホールですが、音響効果が良いことでも知られています。そのため室内楽やソロ歌手のリサイタルによく使われます。

実は紀尾井ホールでは、2006年6月から毎年「中丸三千繪リサイタル」をシリーズで上演しています。ちょうど、今年は5年目にあたり、中丸さんが最も信頼を寄せる清水和音さんをピアニストに迎えてリサイタルが行われることになりました。

第1部では、ヘンデルやマーラー、リヒャルト・シュトラウスの歌曲なども交えて9曲が披露されました。ちなみに第1部の最後は、プッチーニ作曲のオペラ「ジャンニ・スキッキ」の名曲「私のお父さん」でした。

休憩を挟んで第2部は、情感を込めたラヴェル作曲の「亡き王女のためのパヴァーヌ」から始まり、ラフマニノフ、ガーシュイン、プーランクなどの作品が披露されました。そして、2部の後半は中丸さんの本領を発揮できるイタリアオペラのアリアです。「椿姫」から「さようなら、過ぎ去った日よ」、「トスカ」から「歌に生き、愛に生き」、「ノルマ」から「清らかな女神よ」が続けて披露されました。

さすがにイタリアでオペラの研鑽を積まれただけあって、ドニゼッティやヴェルディなどのオペラのアリアは見事でした。ピアノ伴奏のリサイタルではありますが、情感込めて歌う姿は、エピソードにもあったように「オペラの中のヒロイン」になりきっていましたね。

逆に第1部で披露されたドイツ歌曲(マーラーやリヒャルト・シュトラウス)については、水準以上の出来ではあるのですが、ドイツ語が全般的にこなれていない感じを受けました。この当たりは、ドイツ語圏のオーストリアやドイツで研鑽を積まれた歌手の方との違いかもしれません。Feriも、良い勉強になりました。

また、中丸さんは超高音が得意という歌手ではないようですが、中音域も含めた声量が非常にありますね。さすが、オペラで鍛えただけのことはあります。

今回、Feriが一番、すばらしいと感じたのは「椿姫」の「さようなら、過ぎ去った日よ」でした。何しろ歌う前にセリフから入りましたから。とにかく情感を込めて歌う姿は、イタリア人、そのものです heart04 。逆にずば抜けた高音域が要求される「清らかな女神よ」は、ちょっと物足りない印象でしたね(どうしてもグルベローヴァさんと比べてしまう悪い癖があるので coldsweats01 ごめんなさい)。

ところで、通常、この手のリサイタルの場合、ピアノだけの単独演奏が入るケースが多いのですが、今回は全て中丸さんの歌が入っていました。

アンコールはショパンの「別れの曲」とグノーの「アヴェマリア」でしたが、カーテンコールの際、中丸さんご自身でエピソードを披露されました。実は、中丸さんのお師匠さんに当たるジュリエッタ・シミオナートさんが、今年の5月、お亡くなりになったそうです。

数年前、中丸さんがイタリアにジュリエッタ・シミオナートさんを訪ねた際、帰り際、ジュリエッタ・シミオナートさんは中丸さんに“ミチエ、今日で会うのは最後にしましょう。私も年老いた姿をミチエに見られたくない。そして、あなたは歌に生きなさい。仮に私に何かあっても、舞台を休止して来てはなりません。”とおっしゃったそうです。

これが2人の別れになり、ジュリエッタ・シミオナートさんがお亡くなりになった報に接しても、約束を守り、イタリアへは行っていないとか。中丸さんはすでにお亡くなりになったアリーゴ・ポーラさんにもレッスンを受けていますが、同じような約束をしているため、お墓参りにも行っていないそうです。

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中丸さんは、お二人のお墓に花を手向けるのは、自分が歌手をやめて舞台を下りてからと決めているそうです。ちょっと、ホロッと来るお話ですね confident

また、中丸さんのお父様もお亡くなりになっていることあり、最後の曲はジュリエッタ・シミオナートさんとお父様に捧げるグノーの「アヴェマリア」になりました。こういったエピソードをうかがった後だったので、情感込めて歌う中丸さんにFeriは魅了されました confident

このほか、興味深いお話ですが、中丸さんは、実はシンガー・ソングライターの谷村新司さんと、古くからお付き合いがあるそうです。お父様が亡くなったとき、かなりショックを受けた中丸さんは、お父さんを追悼する歌を作って欲しいと個人的に谷村さんに依頼したとか。

その歌を何と中丸さんご本人も歌っています。まだ、CDなどにはなっていないのですが、6月16日から日本国内では携帯サイトからダウンロードして、聴くことができるとか。ダウンロード方法などの情報は、配信しているレコチョクのサイトをご覧ください。

余談ですが、夏のコンサートであるため、お客さまは軽装になりますが、さすがに女性はおしゃれをして来ているので、会場の雰囲気にマッチするのですが、男性がねぇ。日本人男性が、ノーネクタイのYシャツ姿というのは、どうも締まりません。さすがに正装は必要ないですが、日常空間をそのまま持ち込むのはねぇ。

Feriの個人的な見解なのですが、すばらしい音楽を鑑賞する場合、劇場の雰囲気も大切だと思っています。本来、オペラやリサイタルは「非日常的な空間」なので、その雰囲気だけは壊してもらいたくないですね。クラシック音楽大国と言われる日本ですが、こういった環境面の整備はまだまだのような気がします。話が横道にそれてきたので、今日はこの当たりで coldsweats01

なお、ここにご紹介した中丸さんのエピソードについては、当日の中丸さんご自身のお話に加えて、「マリア・カラス・コンクール」(中丸三千繪著、講談社文庫)と、中丸三千繪インタビュー「歌うために私はいま、ここに生きる」(「致知」平成19年3月)を参考にさせて頂きました。

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Comments

Feriさん、こんにちは、saraiです。

なかなか珍しいテーマですね。
中丸さんの歌は昨年末の横浜みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートで聴きました。

欧米の超一流の歌手に比べると、声量や高音では見劣りしますが、やはり、歌は心。

彼女のマーラーは心を打たれました。彼女を生で聴くのは初めてでしたが、テクニックも声もいまひとつにかかわらず、マーラーに感情移入した魂の歌でした。

逆にイタリアものはどうしても声の力がないので、もうひとつ満足できませんでした。

このあたり、Feriさんと感じ方が逆になっていますが、まあ、好みの問題と、それにsaraiがドイツ語を解しないためでしょう。分からないから、感動できるってこともありますね。勘違いにせよ・・・

Posted by: sarai | June 20, 2010 at 10:14 AM

そもそもネクタイと上着が洋服でワイシャツって下着だよ。
西洋から来たスーツは暑くともきちんと着る文化なんだから、クールビズなんて発展途上国みたいで洋服ではないよ。
せいぜい和服、人民服、民族衣装などの部類だよ。
ノーネクタイは、みっともないし、失礼で見苦しいから見たくないからやめていただけませんか?
失礼の以前の問題としてご自分が恥ずかしい格好であることを忘れないでくださいね。

Posted by: 男性のノーネクタイは、非常識で失礼で、カッコ悪い | June 20, 2010 at 03:06 PM

saraiさま、お久しぶりです。

恐らくホールの違いが影響しているように思います。紀尾井ホールは定員800名という比較的規模の小さいホールですからね。

横浜みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートだと、フルオーケストラでしょかね。今回はピアノ伴奏だけだったので、感じ方も違ったような気がします。

私は中丸さんが出演したオペラを観たことがないので、そのあたりの評価はできないのが残念です。しかし、気持ちを込めて歌われる姿には心打たれるものがありました。これだけはご一緒かと思います。ちょっと日本の歌手には珍しいタイプかもしれませんね。

Posted by: Feri | June 20, 2010 at 03:23 PM

中丸さんは、今はなき友人の友人でしたのでよく話には伺っていました。
イタリアオペラが苦手なので、ここ10年近くご無沙汰でしたけれど、イタリアオペラの期待を背負っていらっしゃった方だったのですね。

今は、藤村実穂子さんの声に魅了されています。^^;

Posted by: いづみ | June 22, 2010 at 05:54 PM

いづみさま、コメント、ありがとうございます。

藤村さんは、私もウィーン国立歌劇場で観たことがあります。藤村さんは日本人では数少ないワーグナー歌手なので、楽しみですね。

確か、以前、バイロイトにも出演されていますよね。

Posted by: Feri | June 22, 2010 at 06:00 PM

藤村さんは、今年のバイロイト音楽祭でも ラインの黄金とワルキューレでフリッカ役で出演されますよ。

Posted by: いづみ | July 01, 2010 at 07:35 PM

いづみさま

情報、ありがとうございます。藤村さんもご活躍でなによりです。

Posted by: Feri | July 01, 2010 at 08:29 PM

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