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October 28, 2010

番外編 オットー・ビーバ博士によるレクチャーコンサート

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神出鬼没のFeriですが、今回は日本の埼玉県川口市に現れました。

というのは、川口総合文化センター・リリアの開館20周年を記念して「ウィーン楽友協会資料館館長のオットー・ビーバ博士によるレクチャーコンサート」が10月27日に開催されたからです happy01

Feriなどは、川口と聞くと「鋳物の街」というイメージがあるのですが、最近では工場はすっかり少なくなり、東京に隣接した住宅地に変貌しています。

川口総合文化センターリリアはJR川口駅とペデストリアンデッキで結ばれているコンサートホールを備えた施設です。今回、開館20周年を記念した特別展「3人の偉大なる楽聖たち モーツァルト、ベートヴェン、シューベルト資料展」が同センターで開催されるのに合わせて、オットー・ビーバ博士によるレクチャーコンサートが開かれることになったものです。

実は、以前、Feriは楽友協会で開催された特別展の会場で博士とお会いしました(博士は覚えていらっしゃらないかもしれませんが…)。たいへんな日本通で、ビックリしました。それだけに、是非、お話を聞きたいと思い、仕事の都合をつけて駆けつけました。ちなみに、今回のコンサートは、20周年記念事業として無料でした(ただし、事前申し込み制)。会場はリリア音楽ホール(定員600名)でした。

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今回は、プログラム全体をビーバ博士が監修されており、モーツァルト、ベートヴェン、シューベルトが活躍した当時の notes 音楽サロンや、貴族の邸宅で開かれた notes 家庭コンサートがコンセプトになっていました。

演奏に参加したのは赤池 優さん(ソプラノ)、北村朋幹さん(ピアノ)、弦楽四重奏クァルテット・エクセルシの皆さん(西野ゆかさん、山田百子さん、吉田有紀子さん、大友 肇さん)でした。

最初の曲はモーツァルトの歌劇「フィガロの序曲」ですが、サロン用として弦楽四重奏版に編曲されたものが演奏されました。当時は、貴族の邸宅などでは、家庭コンサートが盛んで、当然、オペラの演奏なども行われたとか。ただ家庭コンサートではフルオーケストラでは演奏できないため、弦楽四重奏版やピアノ伴奏版の編曲が盛んに行われていたというお話でした。なるほどねぇ。なお、この序曲ですが、オリジナルが出てからわずか6ヶ月後に登場したそうですが、編曲者は不明とのことです。

続いて、同じく「フィガロの結婚」からスザンナのアリア“私の心は喜びにおどる”のサロンバージョンが披露されました。ピアノ伴奏バージョンなのですが、これは何とモーツァルト自身が編曲したもので、ある女性に送った楽譜だそうです。

また、ビーバ博士からは、当時、貴族達がどのように家庭コンサートを楽しんでいたかという様子を、当時の手紙を使って紹介されました。この頃の家庭コンサートは、プロの歌手や奏者を呼んで行うと言うより、音楽好きの家族や友人が集まって、アマチュアである自分たちが演奏し、歌うというのが一般的だったそうです。これは、上流階級や知識人は音楽の素養があるのが、教養の一つとして位置づけられていたことによるものです。こういった土壌が、今日の音楽文化につながっているのですねぇ。

三曲目は、モーツァルトがサロン用に作曲した作品ピアノ四重奏曲ト短調KV478(第1楽章)でした。おもしろかったのは、この曲は作曲当時、専門家からの評価は高かったものの、音楽ファンからの評価が低かったという新聞評が紹介されたことです。

その理由ですが、ピアノと弦楽器のコンビネーションが難しいため、集中力が乱されやすいサロンで演奏すると、良い演奏ができなかったとか…(当時の音楽サロンでは、演奏中も私語をする人などが多かったようです)。その結果、コンビネーションが乱れた曲を聴いたファン達が、作品への興味を失ってしまった…というのが実態だそうです。

また、作品自体も当時としては、先鋭的なメロディーだったことも影響しているようです。こういう話を聞くと、興味がわきますね。ところで、演奏前に「非常にコンビネーションが難しく、奏者に集中力が要求される曲です」と奏者にプレッシャーをかけるあたり、ビーバ博士もお茶目です(こういうところがウィーンの方らしいですね heart04 )。

四曲目はベートーヴェンのセレナード ニ長調(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための)op.8(1~3楽章)だったのですが、ここでビーバ博士から、当時のセレナードがどのように使われたかという裏話が披露されました。

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セレナードは「相手を驚かす音楽」という位置づけで使われていたそうです。実際には、当時、何かあったときに音楽(生演奏)をプレゼントするという習慣があったそうです(もちろん上流階級のお話ですが… coldsweats01 )。

どうやってプレゼントするかというと、よる相手が家で床に入っているような時間帯に、楽団が訪問し、呼び鈴を鳴らします。相手が出てきたところで、演奏開始。当然、道路上で演奏する訳ですから、近所の人もすぐにわかります。で、楽団の周りには人だかりができて、大変な盛り上がりに…そのため、この曲は第1楽章がマーチになっています。

音楽のプレゼントが集中する記念日などには、楽団も掛け持ちになるので、集まった音楽ファンが楽団の後をついて行ったというエピソードもあるそうです。

しかし、生の音楽をプレゼントするなんて粋ですねぇ。さすがウィーン(Feriはオペレッタのチケットをプレゼントするのが精一杯です delicious )。

五曲目は、ベートーヴェンの作品ロンド・ア・カプリッチョ ト長調op.129でした。この曲には「失われた小銭への怒り」というニックネームがついていますが、ビーバ博士から楽曲にニックネームがつくプロセスのお話がありました。

お話によると、作曲家自らがニックネームを付けるケースは希で、多くの場合、後世になって奏者や聴衆がイメージしたものが、ニックネームになるケースが多いそうです。この曲も、激しい調子の曲なので、“きっとお金をなくして怒っている時に作曲したのだろう”と考えた人がつけたとか…なるほどねぇ。そう言われれば、そんなシーンも目に浮かびます。

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最後はシューベルトの曲です。やはりサロン用の曲で、ヴァイオリンとピアノのためのソナティナ第3番ト短調が演奏されました。ビーバ博士からは、シューベルトが活躍した時代は、弦楽器は基本的に男性が弾くことになっていたというお話が披露されました。理由は、女性が弾くと腕の動きなどが激しく、下品に見えるからだそうです。逆に女性向きな楽器はピアノだったとか。何となく上流階級の雰囲気がわかりますね。

そして、次の曲はシューベルトのリート「音楽に寄す」D547でした。ビーバ博士が強調していたのは、この曲の詩です。“音楽は非日常へ誘い、人間の心をいやしてくれる”という内容が歌われています。

シューベルト自身が、音楽の効用を訴えた曲として紹介されました。確かに、Feriも、日常生活で落ち込んでいる、疲れているときでも、すばらしい生の音楽に接すると、その時間だけは「非日常的な世界」になり、元気になりますね。だからフォルクスオーパー通いはやめられないのですが…coldsweats01

そして、最後の曲は、締めにふさわしくワルツが披露されました。が「普通のワルツ」ではありません。ゾンライトナー作曲の「弦楽のためのワルツ」です。ゾンライトナーの曲を聴いたことがある人は少ないと思います。

詳しい方はご存じのようにゾンライトナーはシューベルトの友人ですが、本業はウィーンの弁護士さん。一方で、音楽サロンの常連さんです。当時の知識人ですから、教養として音楽を学んでおり、アマチュアながら作曲もしていたそうです(当時は、友人に自分が作曲した曲をプレゼントすることが良くあったそうです)。

とくにピアノの練習をしていた人は、作曲も学ぶことになっていたので、プロの音楽家ではなかったゾンライトナーも作品を残していた…という訳です。演奏された曲を聴くと、まぁ、プロ並みの見事な旋律のワルツでした。昔はこういうすごい人がいたのですねぇ coldsweats01

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今回、21時終演予定でしたが、ビーバ博士のレクチャーが盛り上がってしまったことなどもあり、アンコール(シューベルト作曲12のドイツ舞曲7~10番)が終わったのは21時30分を回っていました。しかし、Feriにとっては、久々に楽しく、ためになるコンサートでした。とくにビーバ博士のお話を伺って、音楽文化が形成されるプロセスの一端を理解することができました。

今回、ビーバ博士を引っ張り出した上に、このような日本では滅多に聴くことができないレクチャーコンサートを企画した川口総合文化センターの皆様に敬意を表します。すばらしい企画でした。

なお、現在、リリアでは、開館20周年を記念した特別展「3人の偉大なる楽聖たち モーツァルト、ベートヴェン、シューベルト資料展」が催し物広場で開催されています(11月2日まで)。この展示会にはウィーン楽友協会資料館が収蔵しているベートーヴェンの「第九」第1稿をはじめとする3大作曲家の自筆譜とゆかりの品を特別公開されています。

ウィーンでも通常は公開されていない品々なので、ファンの皆さんは、是非この機会をお見逃しなく。詳しくはAustria-fan.comに掲載されています。

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Comments

すごいですね。 ビーバ博士の講演はモーツァルトフェスティヴァルで何度か拝聴してます。 
すごい企画ですね。 クラシックが 身近に感じられますよね。 

Posted by: FLORENTIA55 | October 28, 2010 at 04:37 PM

FLORENTIA55さま、コメント、ありがとうございます。

プログラムの組み方、お話の奥行きなどにウィーンの音楽文化を感じT一夜でした。

FLORENTIA55もおっしゃるように、こういったコンサートが定期的に行われると、クラシックが身近に感じられるようになると思います。

とにかく、企画を立案された川口総合文化センターの皆様に拍手 happy01 です。

Posted by: Feri | October 29, 2010 at 09:15 AM

その翌日に開催されたロベルトホル氏とオルトナーみどり氏による「美しき水車小屋の娘」コンサートも素晴らしかったです。ご覧になられましたか?。
オルトナーみどりさんはウイーン在住で、地道に音楽の楽しさ、素晴らしさを伝える試みを精力的にいろいろされている素晴らしいピアニストです。

Posted by: アンジュ | November 06, 2010 at 03:16 PM

アンジュさま、コメントありがとうございます。

翌日は仕事の関係で、観ることはできませんでした。レクチャーコンサートの時にも翌日のコンサートのご案内もありましたね。

レポート、ありがとうございます。

Posted by: Feri | November 06, 2010 at 05:34 PM

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