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January 31, 2011

番外編 オペレッタ「モスクワ、チェリョームシキ地区」

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1月最後の話題は、番外編ですが「オペレッタ」です。といってもライブではないのですが coldsweats01

このところ全くオペレッタを放送しなくなってしまった二本のNHKさんですが、何を血迷ったのか、フランスで上演されたオペレッタ二本が、アジアカップ決勝が行われた1月29日深夜に放送しました。一本は、珍品中の珍品ショスタコーヴィッチ作曲の「モスクワ、チェリョームシキ地区」、そしてもう一本はオッフェンバック作曲の名作「天国と地獄」(地獄のオルフェ)です。

このうち、「モスクワ、チェリョームシキ地区」は、ショスタコーヴィッチが生涯で作曲した唯一のオペレッタと言われています。1958年に作曲された作品ですが、肝心の台本が良くなかったため、ほとんど上演される機会がなく、ほとんど情報がありませんでした。

今回、2009年12月12月にフランス国立リヨン歌劇場で上演されたものが放送されましたが、このような取り上げたリヨン歌劇場には敬意を表します。

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この作品ですが、ソ連の都会生活にまつわる日常の問題に対する若干の風刺と、オペレッタにはなくてはならないロマンスをミックスした作品です。

物語は、1958年のモスクワが舞台です。当時、ソ連では、都市整備計画の一環として郊外に大規模な住宅団地が開発されていました。「チェリョームシキ」とは、モスクワ南西部にモデルとして建造されていた高層住宅地域の名称で、この団地への入居を巡る騒動がテーマになっています。

第一幕はサーシャが務めている博物館が舞台です。サーシャと、その妻マーシャは住む家がないため別居状態ですが、いつか自分たちの家を持ち一緒に住むことを夢見ています。一方、ティオプリ通りに住むバブロフと、その娘リードチカは、長年住んでいた家を追い出されてしまいます。

そんな四人のもとに「チェリョームシキ地区」の団地への入居決定の知らせが届きます。皆は、期待を胸に団地へ向かうのですが、そこには悪徳官僚ドレベドニョフと、その部下の管理人バラバシキンが待ち構えていました。その後、入居が決まったチェリョームシキ地区の新築団地にやってきますが、この地区では物が不足してい窮状が住民により訴えられます。そして、悪徳官僚と管理人が鍵の引き渡しを巡って入居予定者と一悶着あるところで幕となります。

第二幕は、サーシャとマーシャ、バブロフとリードチカが、団地の部屋に忍び込んで生活を始めるところから始まります。しかし、団地へ居住する予定者たちは悪徳官僚ドレベドニョフとバラバシキンによる不正やごまかしに翻弄されます。例えば、ドレベドニョフは妻のご機嫌をとるため、特権を振りかざして住民の部屋を横取りし、自分たちだけ部屋数を増やしてしまいます。オペレッタですから、たくましい庶民も負けてはいません。様々な知恵を働かせて、悪徳官僚や管理人と対峙していきます。

三幕では、団地の中にある「魔法の庭」で事態は解決し、皆が素敵な新しい住居の鍵を手にするというものです。正直、旧ソ連時代の近代オペレッタなので、まぁ風刺もこの程度が限度でしょうね。それでも、かなりやばそうな感じはしましたが…

放送された公演の指揮はキリル・カラビッツさん、演出はマシャ・マケイエフさん(この人は衣装、美術も担当)とジェローム・デシャンさんでした。

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出演者はアレクサンドル・ペトロヴィチ・ブベンツォフ(サーシャ)がロマン・ブルデンコさん、マーシャがクリスティナ・ダレツカさん、セルゲイ・グルシコフがアンドレイ・イリュシニコフさん、リューシャがエレナ・ガリツカヤさん、リードチカがオルガ・ペレチャツコさん、セミョーン・セミョノヴィチ・バブロフがゲンナジー・ベズベンコフさん、ボリス・コレツキーがナビル・スリマンさん、ヴァヴァがマリア・ゴルトセフスカヤさん、フョードル・ミハイロヴィチ・ドレベドニョフ(悪徳官僚)がミカエル・ババジャニャンさん、アファナーシ・イヴァノヴィチ・バラバシキン(管理人)がアレクサンドル・ゲラシモフさんでした。

映像作品ですから、歌手の声量などは判断できませんが、皆さん、一定の水準だったように思います。

実際に作品をテレビで観て驚いたのは、ショスタコーヴィッチらしからぬ作風の曲が多いということです。良い意味でオペレッタの本質をよくつかんだ楽しい曲がちりばめられています。ショスタコーヴィッチは自伝の中で「この楽しい、生きる喜びにあふれたオペレッタというジャンルは心から好ましく、オッフェンバッハ、ルコック、ヨハン・シュトラウス、カールマン、レーガーのような名手の作品を高く買っているわたしは、自分のオペレッタの第一作がこのジャンルに価し、ソ連のよき聴衆に愛されることを心から願っている」(ちょっと優等生的な答えではありますが smile )と述べています。驚きましたね。オペレッタの名作曲家がお好みとは…意外な側面でした。そのため、この時代(何しろ1958年)には珍しく古典的なオペレッタに近いメロディーの曲が多いのでしょう。

ところで、“木々は、もうじき話を咲かせ、恋人たちが再会する。桜の花咲くチェリョームシキ、みんなの夢がかなう街!”というのが、この作品のテーマソング(チェリョームシキの歌)で、随所に合唱で歌われます。こういったテーマソングを織り込むのはベナツキー作曲の「白馬亭にて」でもみられますね happy01 。また、ロシアの大衆歌も色々と引用されているそうで、これが親しみやすいメロディにつながっているのかもしれません。

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先ほどショスタコーヴィッチの自伝をご紹介しましたが、実はご本人は本音のところでは、この作品を気に入っていなかったという説があります。というのは、本作品の台本は、ベテラン作家のV. マースとM. チェルヴィーンスキイが担当したのですが、内容が悪くショスタコーヴィチの創作意欲を刺激するものではなかったことが、友人への手紙に書かれているとか…おそらく、本当はもっと風刺を効かした作品を仕上げたかったのでしょうが、当時の体制下では、さすがに無理ですよね coldsweats01

今回のリヨン歌劇場版は、どの程度、オリジナルに忠実なのかはわかりませんが、オペレッタの定番、「カップルの恋の行方」がテーマになっているものの、今から観ると風刺が足りないためか、全体的に冗長な感じがしました(もっと上演時間を短くした方が、今の時代には合うかもしれません)。作品としての完成度に問題があったため「忘れられた作品」になってしまったそうです。

舞台装置ですが、リヨン歌劇場ではフォルクスオーパーと異なり、回り舞台を使っていませんでした。逆に舞台全面を使っており、とくに団地の大道具は部屋を輪切りにしたような感じで雰囲気が出ていますね。なお、一幕の博物館はスクリーンと小道具で対応していましたが、当時のソ連のイメージを再現していましたね。

また、興味深かったのは台詞はフランス語、歌はロシア語で上演された点です。Feriは、かねがね台詞は上演国版でも良いが、歌はオリジナルで…と思っていたので、興味がありましたが、なかなかうまくできていたように思います。

こういう珍しいオペレッタをテレビではありますが、観ることができたのはラッキーでしたね。日本のオペレッタファンの皆さまも、初めてご覧になったという方が多かったのではないでしょうか。


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Comments

はじめまして。
ステキな記事を拝見でき嬉しく存じます。

私もショスタコーヴィチのオペレッタ?というのに興味を惹かれこの放送を録画していて、1週間遅れでついさっき絡み始めたところです。
ご指摘なさっている通り「ショスタコーヴィチらしからぬ音楽」で、素直に楽しめています。

この記事を拝見したお陰でいっそう楽しく視聴することができています。

ありがとうございました。

Posted by: nomomania | February 06, 2011 at 08:54 AM

nomomaniaさま、コメント、ありがとうございます。

正直、オペレッタにはまっているFeriも、こんな「珍品」を日本のテレビで観ることができるとは思ってもみませんでした。

実際の舞台で観てみたいものです。

Posted by: Feri | February 06, 2011 at 05:59 PM

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